間違いメール
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『ま、間違えた』
携帯を片手にフリーズするわたし。
画面には“送信しました”の文字。
冷や汗が流れる。
どどどどどどどうしよう。次にやることを考えてたら、春歌に送るメールを、間違えて神宮寺さんに送ってしまった。
よりによって、神宮寺さんに。
同じクラスとはいえ、わたしのペアはトキヤである。話はするが、わたしはあまり神宮寺さんとの接点はない。
別に変なことは書いてないはずだけど、間違えて送っちゃったのは恥ずかしいなぁ。
間違えてメールを送ったことを伝えようと、慌てて携帯を持ち直す。
すると、廊下を駆ける騒がしい音と共に、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「やぁ、レディ。呼んだかい」
そしてそこには、髪や衣服が乱れている神宮寺さんがいた。
微かに息が上がって、汗が滲んでいるようにも見える。
『え、じ、神宮寺さん?何でここに?』
「何って……君が呼んだんじゃないか」
他のレディとの約束も断って来たんだ、と手に持っている携帯を軽く叩く神宮寺さん。
あれ、そういえば何て送ったんだっけ。
文面を確認しようと携帯に視線を戻した瞬間、神宮寺さんがぱっと携帯を取りあげた。
「おいおい、自分で呼び出しといてそれはないだろう。用件はなんだい?」
『……えーと。ひとまず携帯を返していただけませんか』
「嫌だね」
『………』
神宮寺さん、結構怒ってる。普段はこんなに感情を表に出す人じゃないのに。
逆に本当のことが言いづらくなってしまってしばらく黙っていると、不意にドアが開いた。
「……開けますよ、なまえ。少し曲のことで相談したいことが……って、レン?」
楽譜を持ってわたしの部屋に来たトキヤ。
それを睨む神宮寺さん。
なんだか、不穏な空気。
『あ、あの』
「イッチー。レディの部屋のドアをいきなり開けるなんて、失礼にも程があるんじゃないか」
「あなたには関係ありません。大体、どうしてあなたがこんなところにいるんです?」
「俺はレディに呼ばれて来たのさ。ね、レディ」
『あ、えと』
「なまえが?レンを?……呼ぶはずがないでしょう。理由がない」
「イッチー。いい加減怒るよ」
「私の行動に難癖をつけるあなたが悪いんです」
『ちょっと』
「レディの前だからって、えらく強気だな。いいぜ、その喧嘩買ったよ」
「その言葉には少々引っ掛かりますが……いいでしょう。受けてたちま」
『ちょっと!何熱くなってんの!』
ばしゃっ
コップの水を思い切り二人にぶっかけると、やっと我に返ったらしい二人が、驚きの表情をこちらに向けた。
「……なまえ…」
「レディ…なかなかやるね」
水の滴る髪の毛をかきあげながら、艶のある笑みを浮かべてそう言う神宮寺さんを見て、わたしは覚悟を決めた。
事態がこれ以上ややこしくなる前に、全て話してしまわなければ。
『まずは、わたしの話を聞いて。こうなった経緯を説明します』