太陽の影

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「……実は私、一ノ瀬さんとお付き合いしているんです」





春歌がそっと、教えてくれた。一緒に作曲家を目指して共にがんばっていた春歌からの、突然のカミングアウト。トキヤのパートナーとして、素晴らしい音楽を作ってきた彼女が、頬を赤らめて、私にそう言った。
それはとても喜ばしいことで、トキヤも春歌も好きな私は、すごく喜んだ。私が喜ぶと照れる春歌がまたかわいくて、それがさらに嬉しかった。







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気付いたのは、本当に偶然だった。
人気のない廊下を歩いていると、少しだけドアの開いている教室があって、ただ何となく、覗いてみただけ。
するとそこには、声を抑えて苦しそうに涙を流す音也がいた。時々洩れる嗚咽とぽたぽたと落ちる雫で、泣いているのだと気付いた瞬間、見てはいけないものを見ているような気持ちになって、私はそこを離れた。パートナーである私が、明らかに傷付いている彼を見捨てるなど、あってはならないことなのに。

でも、あの時、私は逃げ出してしまった。彼を慰められるような言葉を、かけられる自信がなかったから。





「ね、ね、なまえ!」

『……っえ!? ななな何?』

「え、なんでそんなに驚いて……っていうか、感想!俺の歌詞、どう?」

『あ、そうそう歌詞の感想ね! えーとね』





脳裏の映像を打ち消して、私は手元にある楽譜に目を向けた。うん、いつも通り、明るくて音也らしい歌詞。
……あれ?





『音也、これなに?』





特に意味もなく、ただ単に気になっただけだった。なのに私が問いかけた瞬間、音也はぴくりと体を震わせた。
そこには、何かが黒く塗り潰されていた。文字の上から何度も何度も、全て見えなくなるくらいに黒く。





「え、あ、それは、」

『………?』

「別に、何でも、ないよ」





そう言った音也の顔を見た私は、あの日の音也を思い出した。
誰もいない教室で、一人泣いていた音也。





「……………」

『……音、也?』

「……ぁ、な、何でもないよ、本当に。とにかく、歌詞はこれでいいんだよね」

『え、あ、うん、でも音也』

「じゃあこれで練習しとくね、またね」





強引に話を終わらせて、音也が私に背を向けた。音也が行ってしまう。また私は、苦しそうな音也に気付かない振りをしたままになってしまう。力になりたい。音也の悲しい顔は、見たくない。
私は、とっさに音也の腕を掴んだ。





「…………」

『……あ……音也、その』

「…………離して、なまえ」





冷たい言葉に、怯みそうになる。でも、音也を苦しめている原因を、教えてほしいから。





『……何が、あったの』

「…………」

『……話してほしいな。楽になるかもしれないよ』

「…………」





音也は私を一瞬見て軽く呼吸をしたあと、貼り付けたような笑顔を向けた。





「大丈夫、だから」





その笑顔を目にした瞬間、私はもう何も言えなくなった。






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