ことばのちから
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好きって、とても重い言葉だと思った。そこにはその人の想い全てが詰まっていて、受け取る方にも、相応の気持ちがないと抱えきれない。だからこそ大切で、言えなくなってしまう。変わらない気持ちだという確信が持てないと、口に出せない。
「……好きだよ、なまえちゃん」
『…………っ、うん』
好きだと言われたら返さなければいけない気持ちになってしまって、でも好きという言葉が言えなくて、結局これしか言えなくなる。
相手を想う気持ちは嘘じゃないけれど、どうしても、言えない。彼はこんなに言葉をくれるのに。
「……なまえちゃんってさ、自分の気持ち、言わないよね」
『…………』
「……受け入れられないのが、怖いから?」
『…………』
「やっぱりまだ、おとやんのこと、忘れられない?」
『……ううん』
音也のことが大好きで、告白してふられたあの日、嶺二が私に告白した。付き合えないと言った私に、いつまでも待つから、と言ってくれた彼の笑顔が切なくて、その気持ちに応えられたらいいと思った。音也への恋心は時間とともに風化していって、今では嶺二のことが好きだ。好きなのに、言葉にしようとするとできない、なんて。
『音也のことは、今は何も思ってないよ』
「……じゃあ、どうして?」
『……その』
「うん」
『……わからない、から』
「……え?」
『…………今日言っても、変わるかもしれない。それなのに、こんなに大事な言葉、言えない』
「…………」
好きだと思ったから、なんて、素直に言える嶺二が羨ましい。先のことを考えてしまう私は、臆病だ。
『……でも、嶺二のことは、一番大切な人だって思ってる』
「……え」
『こんなに大切だと思う人、今までにいないからわからなかったけど……何度会ってもまた会いたいし、一緒にいたいよ』
「…………なまえちゃん」
『なに?』
「それ、答えだよ」
『……えっ?』
ゆっくりと髪を撫でられて、そのまま唇に優しくキスが落とされた。心臓が鳴り響いて、止まらない。私を見る瞳がとても熱を帯びていて、苦しくなる。
「……嫌だった?」
『……ううん』
「……なまえちゃんは、触れたいと思うのは人間の本能だって言ってたよね」
『うん』
「でもね、好きすぎて触れたいって気持ちも、あるんだよ」
『…………』
「なまえちゃんは、ぼくに触れたいって思ったこと、ある?」
『…………っ』
そんなの、ないわけない。手を繋ぎたいだとか、もっとくっついていたいだとか、言うことはなくてもいつも思ってる。
『……っ、ある、よ』
「…………」
『……本当は、もっとくっついていたいって、思ってたり、する』
「……そう、なんだ」
『…………っ』
それが、人間としての本能なのか、そうじゃないのかが、わからないの。だから、いつも言葉にできないままなの。
泣きそうになるのを必死に堪えていると、ふわりと私の背中に腕がまわってきた。
「……涙が出そうになるくらい、きみはぼくのことが好きなんだね」
『……っ、』
「きみは、本当に気持ちを言葉にするのが下手だね。ぼくも、今やっと、わかることができたよ」
『……れい、じ』
「……たぶんね。それはきっと、愛しいっていう感情だよ、なまえちゃん」
『……っ、』
それを聞いた瞬間、堰を切ったように涙が止まらなくなった。私の心が、やっと見つけてもらえたような、そんな気がして。
「……今まで、恋しか知らなかったきみが、初めて愛を知ったんだ。だから、自分の気持ちがわからなかったんだね」
『……っ、嶺二には、わかるの?』
「もちろん。きみのことを考えるだけで、胸が苦しくなって会いたくなる。ふとした瞬間にぱっと思い浮かぶのがきみだったり、綺麗な景色を見たときに、見せてあげたいなぁって思う」
『……うん、そうだね』
「……きみに出会って、ぼくも初めて知った感情なんだ」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、胸が締め付けられるかのように切なくなった。この気持ちは知ってる。大切で大切で、どうしたらいいかわからない気持ち。そうか、これが、
『……嶺二、好き』
「…………え?」
『だいすき』
「え、あ、なまえちゃん?」
どうしたの?と慌てて、彼が私の顔を覗き込んだ。近付いた嶺二の頬に口付けると、一瞬で彼の顔が真っ赤に染まる。おかしくて、かわいくて、思わず笑みがこぼれた。
「えっ……え、え!?」
『……あはは、顔まっかっか』
認めてしまえば、伝えきれないくらいに溢れてくる。好きって言葉には、やっぱりたくさんの意味がこもっている。だからこそ重い言葉だけれど、同時にたくさんの想いを伝えることができるんだね。それでも一言で伝えきれないほどの想いだから、みんな何度も何度も言うんだ。愛しさだとか切なさだとか、いろんな意味を込めて。
『……ありがとう、嶺二』
「どういたしまして」
『…………』
「……好きだよ、なまえちゃん」
『…………私も、』
好き。
そう口に出すと、私の大好きな人は嬉しそうに目を細めて、笑った。
ことばのちから
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臆病な私の、本当のことば。
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