Lavender immortelle

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※ネタバレ含みます






動かなくなった、彼を見た。
大好きな彼は、わたしが話し掛けても、揺すっても、その瞳を開けてはくれなかった。
だからわたしは、決意した。

大切な日々を取り戻すために。










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『違うよ藍ちゃん、そこはもっと冷めてる感じで』

「冷めてる? 呆れてるじゃなくて?」





むっとなって反論してくる彼をたしなめながら、わたしは身振り手振りで伝えようとした。けれど、いまいちぴんときていない彼は、むすっとした表情を変えてくれない。最近は感情を読み取れるようになってきたと思っていたけれど、やっぱりまだまだ学ぶところはあるみたいだ。

藍ちゃんが動き始めて、七ヶ月とちょっとが過ぎた。驚くべき早さで物事を吸収していくその姿は、目を見張るもので。性格が少しひねくれてはいるけれど、真面目で素直な彼は、ロボットだと知っているわたしにさえもう人間にしか思えないほどに成長していた。





「……大体、なんでボクがこんなことしなきゃならないわけ? この役は他の人に決まったはずだけど」

『さっきも言ったでしょ、これは練習なの。今度ドラマに出演することがあった時に、失敗しないためだよ』

「………こんなことしなくても、ボクは演技くらいできるよ」

『わたしが口出しできないくらい立派な演技を見せてから言ってよね』

「……………」





反論出来なくなったのか、頬を膨らませたまま彼はわたしを睨んできた。何だか小動物みたいで、かわいい。
博士と一緒に彼を育てているけれど、まるで子どもを育てているみたいだ、と最近思う。まぁやることは子育てとほぼ似通っているし、間違ってはいないんだけれど。





『……よし、明日も仕事があるし、今日はこの辺にしよう! 疲れたでしょう、シュークリーム買ってきたよ』

「………シュークリーム」

『うん。藍ちゃん好きでしょ?』

「…………まぁ、あるって言うんなら食べるけど」

『ふふ。何個か買ってきたから、好きなだけ食べていいよ!』

「ふうん。じゃあ………これ」

『……あっ!! チョコのやつはわたしの!!』

「何でもいいって言ったでしょ」

『それはわたしが……期間限定……』

「………ほんと、なまえは期間限定に弱いよね。しょうがない、あげるよ」

『え!? あ、ありがとう』

「…………何? その変な顔」

『……いや、素直に返してくれるとは思わなくて』

「ボクを何だと思ってるの。……なまえが本気で残念に思ってるかどうかくらいはわかるよ」

『……………』





正直、驚いた。いつの間に、相手の表情を読み取って、しかも思いやりまで持つようになったのか。





『………ありがとう、藍ちゃん』

「なっ……何、急に」

『へへ、嬉しいな。嬉しいから、半分あげる』

「何がそんなに嬉しいの。全く……」





ぶつくさ言いながら、それでもシュークリームをほおばる藍ちゃんに、わたしは自然と頬が緩んだ。今日の報告書に書くことがたくさんできたなぁ、と頭の隅で考える。
結局、彼はシュークリームを三つも食べてから、レッスン室を去っていった。







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パソコンで報告書をまとめて、プリントする。機械のうるさい音を聞きながら、わたしは財布の中に入っている写真を無意識に取り出していた。





『……………』





もう穴が開くほど見つめた写真。取り出すのが癖になっていたようで、わたしは手に持ったそれをそっと財布に戻した。





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