約束よりも重いキスを
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『……ブレイク。あなたに、あげるわ』
「…………っ、何を……」
『私の、大事なもの』
彼を縛るものが欲しくて、私は彼にキスをした。
そのあとの彼の顔は、私が思っていたよりももっと苦しそうで、人間らしい表情をしていた。
「……っ、貴女は、いつもそうやって……」
苦い顔をする彼に、私は微笑みかけた。そのまま後ろを向いて、歩き出す。
「……何故、何も言わないんデス」
何故、って。
そんなの決まっているでしょう。
口にしたら、泣いてしまいそうだから。
そうしたら、あなたは手を差し伸べてしまうでしょう?
「…………貴女も……ワタシも、本当にどうしようもありませんネ……っ!」
その声と共に、足に重い痛みが走った。覚悟はしていたけれど、やっぱり痛い。さすがの彼も、痛みを和らげることは出来なかったらしい。致命傷じゃないだけ、まだマシだけれど。
朦朧とした意識の中、ブレイクが近付いてくる音が聞こえた。相変わらずの間抜けな足音に、訳もなく涙が溢れる。
「…………何を、泣いているんデスカ」
『……あなたにつけられた傷が、痛いの』
「急所は外したつもりデスガ」
『ふふ、優しいのね……』
血が止めどなく流れ出ているのがわかる。視界が霞んできた。
「…………貴女の傷が治るまでに、必ずワタシが何とかしマス」
『………………』
「約束、デス」
唇にぬくもりを感じたその瞬間、私の意識は途絶えた。
私は自分のためにしか動けなかったけれど。
ブレイク、あなたなら私が本当に望んでいることを、わかってくれると思った。
また前のような、平穏な日々を。みんなが笑って過ごせる、何でもない日を。
そして願わくば、私もそこにいられるように、と。
今までの私は、信じなくてもいいから。
ただ、さっきの約束だけは、信じていてほしい。
私があげた心も、口づけも、真実だから。
約束よりも重いキスを
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それは足枷であり、私たちの希望。
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