永遠の時間
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「変わってないね、なまえ」
『………オズに言われたくない』
10年ぶりに彼と交わした言葉が、これだった。
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話は十年前にさかのぼる。
わたしは近所にある大きなベザリウスの屋敷が、羨ましくて仕方なかった。
ある日、中に住んでいる人を見てみたくて塀を覗こうとしていたら、茂みから猫が突進してきた。
『うわっ!』
勢いに負けて草むらに倒れこむ。
しかも、その猫はあろうことかわたしのポーチに噛みついた。
『な、何するのっ離して!』
ポーチを奪い返すため勢いよく引っ張ると、中身の飴がバラバラと落ちた。
それに食い付く猫。
『あ、これが欲しかったんだね。どうぞ』
美味しそうにペロペロ飴をなめているのを眺めていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「はあ、はあ………ダイナ、こんなところにいたのか! あれ、君は……?」
息を切らしてこちらを見ているのは、わたしが憧れていた屋敷の子供だった。
「というわけで、どれか好きなポーチ持っていきなよ」
案内された部屋に驚きを隠せないまま机に並べられたポーチを見ると、庶民のわたしでもわかるような上品なものがたくさんあった。
『こ、こんなのもらえない』
「え、どうしてさ」
「失礼ながら坊っちゃん、いくらお礼とはいえこのようなものはさすがに……」
うるさいぞギル、と金髪の子が猫を向けると、ギルと呼ばれた少年は泣きそうな顔をして大人しくなった。
「どーしよっかなー。これもらってくれないんなら……お菓子はどう?」
正直見たことがないようなお菓子ばかりだったが、初めて触れた貴族の世界に耐えきれず、適当にお菓子を選んでお礼を言い続けながら、わたしはそそくさと屋敷を出ていった。