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オレは、周りも満足に見えない暗闇の中、走り出した。自分の息遣いだけが聞こえる。すぐに息が荒くなったけれど、構わずに走り続けた。

オレは、何かから逃げている。何だろう。何がオレを追いかけているんだ?





「……っ!」





気が付くと、目の前には空と海。薄い境界線で仕切られているそこは、気を抜けば溶け合ってしまいそうな程に青い。ふと右側を向けば、銀色に光る雲が見えて、それを掴もうとオレは手を伸ばした。





「   !」





声を出したはずなのに、自分が何と言ったのかがわからないまま、オレは銀色の光を握り締めた。その瞬間、どうしようもない恐怖がオレを襲う。これは、本当にオレが手にしていいものなのか?
一瞬の迷いで、オレは思わず握っていた手を開いてしまった。すると、一気に景色が暗くなり、暗転。急に周りが見えなくなったオレは、不安になってまた走り出した。

足がもつれる。転んだ。痛い。なんだか視界が狭くなってきたような気がする。でもオレは、走り続けなければならない。どうして?
……それは。





「………っは!」





視界が闇に覆われた途端、オレは目が覚めた。服がべっとりと肌に張り付いて気持ち悪い。無意識に握り締めていた手を開くと、そこにはくっきりと爪の痕が残っていた。





「……っ、なまえ…」





オズの正体、過去なんて、関係ない。大事なのは、今、ここにいるオズだよ。
そう言ってそばにいてくれた彼女を、突き放したのはオレだった。一度握った手を、失うのが怖かったから。





「―――違う」





……そうじゃない。オレは逃げ出したんだ。傷付けたくないから、というありきたりな理由をつけて。オレはただ、守りきれる自信がなかっただけ。彼女を背負いきれるくらいの、勇気がなかっただけ。

そして、彼女はいなくなった。辛いことも何もかも、一緒に受け止めていくという覚悟で、彼女はオレの手を取ったというのに。希望と安らぎを与えてくれた彼女は、オレの、弱さのせいで――
――オレは、伝えたかったことを、一生伝えきれぬまま。





「………なまえ。」





オレはベッドから出て、歩き出した。血の味がする。いつの間にか唇を噛み締めていたようだ。
鏡の前に立つと、目の前には口から血を流すオレが立っていた。こんなんじゃ、足りない。もっと傷付けばいい。彼女が受けた痛みは、こんなもんじゃない。

オレは、鏡の中のオレに触れた。エメラルド色の瞳が、オレを睨んでいる。
いやらしく口角をあげて微笑んだ鏡の中のオレに、オレは、ゆっくりと口を開いた。





「ギリギリで手にした光から
逃げ出した夜のオレのこと、
オレは許さないから。」




















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頭に鳴り響くのは、サイレンの音。
目を閉じて浮かぶのは、君の笑顔。







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by signal/Kalafina




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