暗闇に一筋の光を
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ノックをすると、どうぞ、と胸くそ悪い声が返ってきて、扉を少し乱暴に開ける。
『………ヴィンス』
「何、なまえ」
『報告。ギルとオズがジャックの魂の欠片に触れたみたい』
「ああ、やっぱりそうなんだ」
『……あと、エイダ様が今度のダンスパーティーに参加するって』
「へぇ、いいことを聞いた。ありがとうなまえ、次のダンスパーティーは僕も参加するよ」
『……お好きにどうぞ』
「つれないなぁ。なまえって、あの女とも仲良かったっけ?」
『エイダ様とは一回しか会ったことない………ちょっと、暑苦しい。離れてよ』
「……君って、僕に対してだけすごくきついよね。結構傷付くなぁ」
『触らないで。………もういいでしょ』
「待ってよ」
ドアの前に立つヴィンス。薄く笑っている彼に向かって思い切り顔を歪めると、目の前の男は一層楽しそうに笑った。
この笑いが、わたしは心底気に入らない。だが、邪魔、と言おうとした唇を塞がれてしまって、何も言えなくなった。
ああ、嫌だ。不快だ。吐き気がする。でも一番許せないのは、この状況に身を置いたまま生活している、わたし自身だ。
『……っ。いきなり何?』
「何、って。僕のところに君を留めておくための、おまじないだよ」
『……馬鹿じゃないの』
そう吐き捨てて、わたしは部屋を出た。髪を軽く引っ張られた気がしたが、気にせずに歩く。またね、という声とともにドアが閉まった音が背中に聞こえて、廊下の角を曲がったところでわたしは大きく息を吐いた。
怒りだとか後悔だとか、いろいろなものが心の中にぐちゃぐちゃと積もっていって、わたしの胸が真っ黒に染まっていく。行き先などなく、ただ足が赴くままに歩いた。
目の前にあるドアノブに、手を掛ける。捻ると、歪んだドアが音を立てて開いた。
わたしの目に入ってきたのは、一人部屋にしては少し広いくらいの、古ぼけた部屋。その真ん中には、埃被った一台のピアノが、夕陽を浴びてそこに佇んでいた。