君がくれた贈り物
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『オズー!今日は何の日でしょーかー!』
夜だというのに派手な音を立てて、嬉しそうな顔で近付いてきたなまえ。
今朝はいつも通りの眩しい日差しと共に朝を迎えて、特に変わった様子もなかった。でも、今日は一般的に言う、クリスマスで。パンドラは仕事で忙しかったけど、この時間はみんな仕事を終えているはずだ。
「クリスマス!だよね!」
『あたりー!ってことでさ、パーティーするからオズもおいでよ!』
「うん!行く行くー!アリス連れて行くから場所教えて!」
『え、もうアリスは来てるよ?』
「えっ」
『あと来てないのはオズだけだから!ほら、早くっ』
強引に手を引かれて、もつれる足をそのままに歩き出す。アリスが先に行っているなんて、意外だった。オレを一番に誘いそうなのに。
歩幅が追い付いて、改めて周りを見回すと、見慣れた景色が目に映った。最後の角を曲がったところで、行き先がはっきりとわかったオレは、呆れた声を出した。
「……なまえ、パーティーの場所って」
『うん!オズの部屋だよ!』
オレの部屋なら、アリスがいるのは当たり前だ。公務とか雑務をやらないアリスは、暇だといつもオレの部屋にいるんだから。
「っていうか、勝手にオレの部屋入らないでよ!」
『えー、いいじゃんたまにはさー!みんなでわいわい!ね!』
「それが嫌だって言ってるんじゃないよ!」
『あっはは。さー、ついたよ!』
なまえが部屋の扉を開けると、美味しそうな匂いが鼻を刺激した。と同時に、今まで手にあった温もりが離れて、少し寂しく感じる。
『あっ、オズ、わたしが手離したから寂しくなっちゃった?』
「なっ……!そっそんなわけないじゃん!」
『あははー。オズはわかりやすいなー』
またぎゅっと繋がれた手が恥ずかしくて、慌てて振り払う。すると、少しだけ寂しそうな顔をしたなまえが、また明るく笑ったから、オレは何も言えなくなった。
こういうときどうすればいいのか、わからないのがもどかしい。
「本当になまえサンはオズ君が好きですネー。そんな子供のどこがいいんデス」
『ブレイク?あんまりなめたこと言うとこれ飛ばすよ?』
「……謝りますからナイフをしまってくだサイ」
『あははー。さて!クリスマスパーティー、はじめるよー!』
手に持っていたナイフをテーブルに置いて、そう高らかに宣言したなまえに応えるように、シャロンちゃんがクラッカーを鳴らし、レイムさんが大きなケーキを切り、ギルがわたわたとお皿を並べだした。オレも手伝おう、とシャンパンに手を伸ばす。
「……あれっ、なんでこんなにたくさんシャンパンがあるの」
「あ、それはね、オズ君。……酒に酔うことのない人が、わたしが酔うくらいのシャンパンを持ってきてってうるさいからデスヨ」
『何か言った?ブレイク』
「いいえー。何でもありませんヨー」
『まったく……大体ブレイクも酒に酔わないんだし、飲めるでしょ、これくらい』
「酔わないからってお酒が好きなわけではありまセン。貴女と一緒にしないでくだサイ」
『失礼な!わたしは今日くらいはしゃげるようにとお酒をたくさん持ってきただけです!酒飲みみたいに言わないでよ!』
「……あはは」
いつものように言い争いはじめたなまえとブレイクに、オレは何故か笑顔がこぼれた。最近は忙しくて、そういう日常から遠い生活を送っていたからかもしれない。
「……なんだよ、ブレイク、その顔は」
「いえ…そんな風に笑うのか、と思いまして」
「…それどういう意味」
『……ほんとさ、ブレイクはオズを何だと思ってるの!』
突然、ぎゅっと抱き締められて、オレは人形のように固まってしまった。ほっぺたがくっついていて、あったかい。
「ちょ、ちょっとなまえ……!うっ!」
『オズはちょっとひねくれてて子どもらしくないけど、その分いろいろ背負って生きてるんだからね!』
「ハイハイ、それよりなまえサン、オズ君が気絶しかけてますヨ」
『あああ!ごめんっオズ!』
「おい!いつまで遊んでるつもりだ!早く肉を食うぞ!あとオズを離せ、なまえ!」
やっと解放されたかと思えば、次はアリスがオレを引っ張って、無理矢理隣に座らせた。
そうこうしてる間に、準備が整ったらしい。なまえがぱんっと手を合わせた。
『よしっ、そろそろ食べよう!メリークリスマース!』
「「「メリークリスマス!」」」
からん、とグラスが交わる音が、パーティーの始まる合図のように鳴り響いた。