わたしの味方
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わたしは、敵にまわしたら恐ろしい、と噂の彼を、敵にまわしてしまった。
『ねー、ブレイク』
「…………」
『ねえってば』
「あっちに行きなサイ」
『やだ』
「……………」
彼はわたしに背を向けて、エミリーとごしょごしょしゃべっている。
端から見ると頭のおかしい人のようだが、これはブレイクが拗ねたときの行動だと知っているわたしは、めげずに話し掛ける。
『ねえブレイクー、ケーキならわたしがまた買ってくるからー』
「…………全然わかってませんネ、」
いきなり振り向いたかと思うと、ものすごい剣幕でこちらを睨んできた。
ブレイクが、っていうよりエミリーの人形みたいな目(人形だけど)がこっちを向いてるのが怖い。
「あのケーキは、ワタシが何時間も並んで、恥を承知で買ってきたあの日限定のレア物のケーキなんデスヨ!?」
『確かにケーキ屋さんの列に並ぶブレイクは見ものだったなー』
「………本当に減らず口デスネ、貴女は」
口で言っても聞かないと思ったのか、彼はわたしの手を取って部屋の外に出ようとした。
あ、それは困る。
『やだブレイク離して』
「反省しましたカ?」
『はいもちろん』
「…………」
真剣に彼を見たつもりだったのに、大きなため息をつかれた。
でも無理矢理外に連れ出そうとはしない。
『なんでこんなにパンドラって厳しいんだろうね』
「………規律が必要なんでしょうネ、貴女みたいな人がいるから」
『それを言ったらブレイクだって同罪です。恋人を部屋に招いてるんだから』
「……………」
『あーブレイク照れてるー』
「照れてませんヨ! ……………確かに厳しい、と思っただけデス」
いつも適当なブレイクが真顔でそんなことを言うので、冗談なんて言えなくなってしまった。
『………あの、ごめんねブレイク、そんな大事なケーキだったなんて知らなくて』
「なまえじゃなかったら殺してマシタ」
『……怖。』
「反省してるんだったら、ワタシを喜ばせてくださいヨ」
『え? ………うわっ!』
いきなりブレイクがこちらにダイブしてきて、折り重なるようにして倒れた。
「もうちょっとかわいい悲鳴とかあげられないんデスカ」
『……重い、ブレイク』
「嫌デス」
見上げると、ブレイクの楽しそうな顔が目の前にあった。
「言っておきますが、ワタシは今甘いもの食べられなかったからイライラしてるんデス」
『………そんな風には見えない』
「何するかわかりませんヨ?」
『糖分中毒め』
「何か言いましたカ?」
『別に何でもないですよー』
必要以上にベタベタしてくるブレイクを、拒むこともせずにぼーっと受け流す。
『ブレイク、』
「なんですカ」
『ブレイクはわたしの敵になることはないもんね』
「いきなり何デス」
あなたはいつでも、
わたしの味方
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『じゃあ怖いものなしだね♪』
「……外に出ることは怖くないんですカ?」
『それだけはほんとやめてください』
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