約束

[ 2/2 ]





「………ギルっ、ギルってば!」

「お、オズ!? ついてきたのかお前っ」

「…はあ、はあ……そんなに全力で走って、一体どうしたんだよ、ギル……っ」





ふう、と言ってギルの隣に座ったあと、オズは息を整えて呟いた。





「……………なまえのこと?」

「…………オズ、俺は」

「初めてで、わからないんだ、ギル」

「………?」

「アリスといるときとは違う、心の奥で灯りがともるような、そんな感じなんだ」

「…………」

「俺にもわからない。だから説明することができない。………でも、」





少し照れたように頭をかくオズが、なんだか大人に見えて。





「ギル、には……見守っていてほしいなって、思うんだ」





とても複雑な気持ちだったが、俺の知らないところで成長するよりはいいか、と思うことにした。





「見守る、だけじゃ納得できん! オズにふさわしいかどうか、俺も見定める」

「……あのねギル、見守る、っていうのは、手出しはしないって意味だよ?」

「あ、ああ………そ、そう、か……?」

「ふふっ」





それよりさあ、とこちらを見てにやーっとするオズ。
嫌な予感しかしない。






「ギルは全然そういう話ないよねー、まさかお兄ちゃんの俺に黙ってエイダに手出してるとか、そんなことないよねー?」

「な、何を言うんだオズ!」

「この前オスカー叔父さんに会ったときに、ちらっと聞いちゃったんだけど……エイダは最近いつにも増してぼーっとしてるらしいし、ナイトレイの“な”を聞くだけで慌てふためくらしいよー?」

「ナイトレイの“な”じゃない可能性は考えないのか!」

「あれー、エイダのことは否定しないの? これはますます怪しいな」

「待て待て待てっ、そういうわけでは」





こうして、見事にオズに話をそらされたギルだった。



















「(ギルにもわかっちゃうくらい顔に出てたんだな、俺)」





ギルバートをさんざんいじくってやったあと、オズは一人で部屋への道を歩いていた。





「(でもあの時なんだか、とても彼女が可愛く思えて。今まで感じたことのないものが、心に満たされて……)」

『あ』

「っ!?」





角を曲がったところで、いきなりアリスを抱えたなまえと遭遇したオズは、驚いて足を壁にぶつけてしまった。





「いっ………!!!!!!」

『え、だ、大丈夫ですか!?』

「ぜ、全然、平気だよ、こんなもの………それより、何でこんなところに?」

『アリスさ……あ、アリスをお部屋にお連れしようと思ったのですが、シャロンもブレイクもレイムさんも知らないそうなので、オズに聞こうと思っていたんです』

「……あの人たち、知ってるはずなのに……」

『え?』

「いやいや、何でもないよ。それよりなまえ、レイムさんだけさん付けになってた」

『え、そうでしたか? ……今までずっとそう呼んできましたから、レイムさんだけは呼び捨てに出来ませんね』





あ、また笑った。
この笑顔を見るたびに俺の胸が温かくなること、きっと君は知らないんだろうな。





「……わざわざありがとう。アリスは俺が連れていくよ」

『はい。ではおやす……』


ぱしっ


『?』

「あ、えっと……」

『どうかしましたか?』





離れたくない、と思いとっさに腕を掴んでしまった。
何より自分が一番驚いている。
彼女のことになると、考えるより先に行動に出てしまってどうしようもない。

あーもう、思い通りにいかないなあ……。





「あ、あの、さ……お礼したいから、部屋までついてきてくれない?」

『……では、お言葉に甘えて』





オズは、そのはにかんだような笑顔を見られたからもう充分なんだけど……と思いつつ、部屋へと案内していった。










「紅茶でいいかな?」

『あ、そんなおかまいなく! オズにさせるくらいだったらわたしがやります!というかむしろ帰ります!』

「え!? うん、わかった……」





本当に帰りそうな勢いだったので、しぶしぶなまえの隣に座った。
アリスはベッドで寝息をたてている。





『アリスは寝付きがいいですね』

「そりゃ、子どもだからねー!」

『オズも子どもです』

「そういう自分だって子どもだよ」

『あ、確かにそうですね』





さっきとは違うけらけらした笑い。
ひとつしか笑い方を知らない俺には、どの笑顔も輝いて見える。
と同時に、客観的にこの状況を見ている自分に気がついてしまった。

ああ、これは、
俺と君が、
決して交わることのない二人だから。
こうして一緒にいること自体が、

奇跡、だから。





「あのさ、」

『はい』

「……約束、しよう」

『え?』





この奇跡が、いつまでも君の中に残るように。





「君が、俺のこと、忘れないように」

『……忘れるわけないじゃないですか』





す、と小指を差し出すと、なまえは俺の大好きな笑顔を向けながら小指を絡ませてきた。




たとえ俺が
何者であったとしても
君の中の俺は
いつまでも変わらずに
輝く思い出で生き続けますように


そう、願いを込めて
俺たちは、約束を交わした。










それから、俺が自分の正体を知るのは、

そう遠くない未来。















約束
------------






prev / next
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -