彼の立ち位置
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『この傭兵団って、家族みたいだよね』
何の意図もなく、自然と口についた言葉だったのだが。
みんな、この話題に思ったよりも食いついてきた。
「家族……?」
「……どういうこと?」
特にユーリスなんて、睨み付けるかのような視線を向けてくる。
『クォークがお父さん、マナミアがお母さんで、』
「ほう」
「まぁ」
『セイレンがお姉さん、』
「姉か!悪くねぇな!」
『エルザとジャッカルはお兄さん』
「へぇ、嬉しいな」
「俺は恋人じゃないのかー?」
『…………んで、ユーリスが』
「おい無視するなよなまえ」
『うるさいジャッカル』
「あ、ひでぇなぁオイ!」
「いいぞいいぞー、もっとやれなまえー!」
「こら煽るなセイレン!」
『あはは』
「……で、僕は?」
『あ、えっと、ユーリスは弟』
「…………」
それから、ユーリスはわかりやすく拗ねてしまった。
「あれは絶対、お前の弟発言のせいだろ」
夜、静かになった酒屋の隅で体育座りをしているユーリスを横目に、セイレンが小声で言った。
『え……そんなことで拗ねちゃうなんて、ほんとに弟みたいだよユーリス…』
「ここはやっぱ慰めてあげるべきなんじゃねーのか?心配しなくてもあなたはわたしの恋人よーユーリス、ってな!」
『なっ、セイレン!声でかい!』
「あっはっはー。あれ、違うのか?」
『……別に恋人とかじゃ…』
「でも、ユーリスが拗ねてる理由、わかるんだろ?」
『………』
「慰めてこいよ!あたしはもう寝るから、さっ!」
言い終わるやいなや、セイレンの馬鹿力に背中を思いきり叩かれて、わたしはユーリスの方にバランスを崩して倒れた。
『うわああああっ』
派手に転んだわたしを、冷たい目で見下ろすユーリス。起き上がってへらっと笑うと、ユーリスは興味なさそうに呟いた。
「………何」
『あ、ユーリス、あの……』
「…………」
『……拗ねないで』
「拗ねてないよ」
『…………』
「…………」
『……おっ、弟っていうのはその、あの、別に本気じゃないっていうかものの例えっていうか』
「知ってるよ」
『……え』
「そんなこと言いに来たの?」
『え、え?わかってるの?じゃあなんで』
「僕が欲しい言葉はそれじゃない」
『…………え、欲しい言葉?……なんだろ』
「本当はわかってるくせに」
一気に顔が赤くなる。
まさか、ユーリスからこんなこと言われるなんて、思ってなくて。
『……お、弟じゃなくて、』
「うん」
『ユーリスはわたしのよき理解者っていうか』
「……は?」
『ユーリスとは一番連携取りやすいし、一緒に過ごしやすいし、』
「………」
『一緒にいると安心するし、時間があっという間に過ぎていくし………ユーリス?』
「……それ、告白してるのと変わらないよね」
『へっ!?』
「ねぇ」
気が付くと、わたしはユーリスの腕の中にいた。固くて冷たい金属の鎧が、気持ちよく感じるくらい、わたしの体は火照っていて、わたしの背中には震えたユーリスの腕がまわっていた。
『あの、ユーリス』
「自覚ないの?」
『じ、自覚、とは』
「はっきり言わないとわからないわけ?」
『……えっと、その』
「なまえ」
どくん、と心臓が跳ねた。
あまりにも優しく、ユーリスがわたしの名前を呼ぶから。
『………』
「なまえ、僕のこと好きでしょ」
『………わっ、わから、な…』
「好きだよ」
『……え』
「なまえは僕のこと、好きだよ」
『…………』
「だから、抵抗しないんでしょ」
『……そ、そうかも、しれない、けどっ』
「けど?」
『…………ゆ、ユーリスだって!』
「僕?」
『ユーリスだってわたしのこと、すすす、好きでしょう!』
「好きだよ」
『………!!』
「何驚いてるの」
自分から言ったくせに、と、まるでふてくされたように言ったユーリスは、そのままわたしの肩に顔を埋めた。
その上、抱き締めている腕に力が入って、心臓が苦しくなった。
『………っ』
「……なんか、」
『え?』
「なまえ、今すごいドキドキしてる?」
『……あ』
「伝わってくるんだけど」
『……う』
「これでも僕は、君の弟?」
『………そんなに傷ついた?』
「そりゃあね」
今まで頑張ってきたこと、全部伝わってなかったんだなぁ、って思った。
そう呟いた彼を見て、今までのユーリスの態度を思い出した。確かに、わたしをやたら気にかけてくれたり、暇があるとわたしについてルリ島をまわっていたりしたけど、それがユーリスの言うがんばりだったのだとしたら。
なんて不器用な人だろう、と思った。
『……ふふ』
「……何、今笑った?」
『あ、いや、ユーリスって不器用だなぁと思って』
「うわ。それなまえに言われたくない」
『えっ』
「自分の気持ちに気付いてるのに、うまく行動とか言葉に出来てないなまえが一番不器用でしょ」
『うわぁ、そう言われると……。でもさ、わたしよりわたしのことをわかってるなんて、すごいよね』
何で、と首をかしげるユーリスに、わたしのことをずっと見てたってことでしょ、と言うと、一気に顔を赤くした。
ユーリスのことを弟だと言ってしまったのは、きっとこのかわいさがあるからだろう。でもそのままでいてほしいから、このことはユーリスには言わないままでいよう。
彼の立ち位置
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この争いが絶えない世界で、そんな甘いことは言ってられないから。
想いを確かめ合ったこれからも、きっとわたしたちは今までと同じ日々を過ごすしかないんだ。
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