なんだかんだバカップル

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『うわぁん、セイレンー』

「どうした、なまえ」





抱きついてきた小さな体を受け止めると、なまえは泣きそうな顔をこっちに向けた。





『ユーリスがさぁ、一緒に闘技場行ってくれないのおおおお』

「なんだぁ?ひょっとしてユーリスのやつ、また図書室行ってんじゃねーだろーな」

『その通りです』

「ったく……お前が言っても聞かねえのか、なまえ」

『うん。なまえの体力には合わせてられない、僕には待ってる子どもたちがいるからって』

「………」





昨日のことだ。
なまえが闘技場に行くからってあたしもついていった。そしたらこいつ、体力には自信があるあたしもへとへとになるくらいに何度も闘技場に挑戦した後、エルザが城から持って帰ってきた依頼を楽しそうに受けていた。

まぁ、ユーリスがそう言うのも無理はないかもしれない……と直接言えるわけもなく、あたしはあいつ子ども好きだからなぁ、と答えになっていない返事を返した。





『子ども好きなのはいいんだけどなぁ。うーん、やっぱり戦いたい。セイレン、暇ならわたしと』

「あぁ!そういえばジャッカルと飲む約束してたんだ!」

『え?ちょっ、セイレン』

「ごめんなーなまえ!またな!」





ごめん、なまえ。正直、お前の体力にはあたしも付いていけねーんだ。
踵を返して酒場へと足を向けた瞬間、なまえが嬉しそうな声をあげた。





『あ、ユーリスっ!』

「は?」





なまえがぶんぶん腕を振っている方を見ると、城からユーリスが出てくるところだった。





「なまえ……大声で叫ばないでよ。うるさい」

『うわぁ、酷い!って、何、この手』

「闘技場行くんじゃないの?」

『!』





わーい!と、なまえが差し出されたユーリスの手を取って歩き出す。
なんだこいつら、あたしのこと見えてないのか!見せつけやがって!もういい!

気付かれないように抜き足差し足でその場を離れようとしたあたしの努力もむなしく、背中に明るい声がかかった。





『あれ、セイレン行かないの?』

「えっ、セイレン!?」

「……なんだよユーリス、珍しく慌てた声あげやがって。どうせなまえしか見えてなかったんだろ?」

「なっ……!そ、そんなこと、あるはずな」

『え、そうなのユーリス』





なまえが期待を込めてそう言うと、ユーリスは唸ってしゃべらなくなった。
ああ、なまえがそんなきらきらした目で見たら、そうとしか言えなくなるだろーが。

予想通りなまえの言葉を肯定したユーリスは、あまりにも真っ赤だった。なのに心から嬉しそうななまえの顔を見て頬を緩ませているユーリスに、あたしは声を出して笑った。





『うわぁ……ユーリス、すごく嬉しいよ!ありがとう!』

「ははは!ユーリス、よかったな!」

「………」

「……なんだよ。そんな顔で睨まれても全然怖かねーぞ」





反撃しようと口をぱくぱくさせているユーリスを見ないように、邪魔者は退散しますよ、と言い残してあたしは背中を向けた。




なまえばっかりひっついて、でもユーリスの態度は相変わらずだったから、少し心配だったんだが。
防具を付けて城から出てきたユーリスは、きっとはじめからなまえと闘技場に行く気満々だったんだろう。





「大体、筋肉あるくせに体力ないあのユーリスが、体力バカのなまえに付き合って闘技場行くくれーだもんな!」





口に出すと心がうきうきしてきた。
あいつなりになまえを大切にしている。それがわかったから。

暗くなってきた空を見上げながら、今日は気分もいいし、たまにはジャッカルの酌にでも付き合ってやるかな、と柄にもなくそう思えた。



















なんだかんだバカップル
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兄弟のように大事にしてきた奴らが幸せなのを見守るのも、悪かねーな。








→おまけ




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