贈り物 | ナノ



絶えず君を想う


「誕生日、おめでとう」

聞き覚えのない声に夢の淵から引き上げられる。瞳を開くと視界いっぱいに美しい青年が広がった。一瞬寝ぼけているのかと思ったが彼のつける上品な香水の香りにこれは夢なんかじゃないと頭が警鐘を鳴らしていた。

「ひ…っ!…っ!」

暗闇をつん裂くような悲鳴は彼女の口内でくぐもった音となり彼の耳以外には届かなかった。まるで何かに縫い止められているかのように唇が開かない。

「…!?…っ!…!」

「ああ、怖がらないでくれ、俺は純粋に君を祝いにきたんだ」

そう言ってニコリと人の良さそうな笑顔を浮かべる青年と対照的にナマエの表情は恐怖に強張っていく。月光に照らされた流れるような黒髪、海を思わせる青の瞳…そしてどんな女性をも魅了してしまいそうなその美しい顔の造形……彼は…

(彼は……誰……)

確かに今日は私の誕生日だ。
だが小さい頃と違って誕生日だからと誰彼構わず声をかけるような年齢ではない。自分を上機嫌で組み敷く青年に見覚えはない…なのに…

(どうして…誕生日を知っているの…)

ナマエの青ざめた表情を見つめて青年は愛おしそうに頬をゆっくりと撫でた。

「俺はブローノ・ブチャラティ……君を…ずっと見ていた」

「……っ」

青年が熱っぽくなぞった頬から全身に鳥肌が伝染していく。普段から女性の一人暮らしだからと窓やドアの施錠は必ず確認している。今夜もきちんと鍵がかかっていることを確認して眠ったはずなのに…彼はどうやってこの部屋に侵入して来たというのだろう。

ふ、と唇を縫い止められているかのような違和感が消えた。

「…け、警察を呼びますよ…!」

情けなく震えてひっくり返った声音で訴えるとブチャラティが月光に照らされたまま瞳を細め背筋が凍るような美しい笑みを浮かべた。

「ふふ、俺相手に警察か…呼べるものなら、お好きにどうぞ」

そう言って綺麗に編み込みをしてある彼自身の黒髪に触れるとブチャラティは何かを掴む仕草をした。ジジジ、と何かが開いていく音がしたと同時に青年の頭がパックリと開いていく。

ナマエは今度こそ悲鳴をあげたが直ぐに彼の大きな掌により唇を塞がれる。

「ああ、大丈夫、驚かせたな…すまない。さぁ、愛する人…この薔薇を君へ…」

「…っんん」

目の前に差し出された薔薇の花束にナマエは必死で横に首を振る。見てしまった……パックリと割れた彼の頭の中に異様な空間が広がっていて、彼はその中から当然のように薔薇の花束を取り出したのだ。

「綺麗だろ…?この薔薇の数は24本ある…」

そう言ってブチャラティは優しく笑うと彼女の唇からゆっくりと掌を外していく。恐怖と混乱から涙を流す彼女の美しい滴を優しく拭う。

「…っお願い…か、帰って…」

「薔薇の本数の意味、君にはわかるか…?」

ーー知りたくない…
会話の通じない青年にナマエは目尻から涙を溢れさせてフルフルと首を左右に振る。

「24時間、君を想っている」

血の気をなくした愛おしい女を見下ろしてブチャラティは満面の笑みを浮かべた。

「誕生日、おめでとう、俺の…愛おしいナマエ」




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