泣いて笑ってバカやって、そんな日々を愛しく想う | ナノ






追いかけっこが始まり、のんびりと銀時、新八、定春を追いかけた陽。
茂みを抜けた先で、事故の現場が広がっていた。
倒れている銀時と新八と定春。皆気を失っているのかピクリとも動かないが、死ぬことはないと陽も分かっているので落ち着いていた。

そして二人と一匹を轢いてしまっただろう豪華な黒い車を見れば、陽の大嫌いなキャラがいた。



「あ、バカ皇子だ」



本人を前にして口走る。
車の上に定春をのせて縄で縛り付けた後、今にも車に乗って逃げだそうとするハタ皇子とじいを見つけた。
陽の無礼な呼び方に、ハタ皇子が振り返りキッと陽を睨んだ。


「余はハタ皇子じゃ!!無礼者めが!」
「ちょっとちょっとォ、無礼者とかさァ、勝手に人のペット連れてこうとしてる奴に言われたくないんですけどーだからバカって言われんじゃね?ね!バカ皇子!」
「ハタって言ってんだろうがァァァ!!しかもこれは保護じゃ!保・護!」
「おまわりさーんペット拉致ろうとしてるバカがいまーす」
「バカじゃねーよハタだっつってんだろうがァァアア!!」
「おまわりさーんペット拉致ろうとしてるバカがいまーす」
「だからバカじゃねーよハタだっつってんだろうがァァアア!!貴様の方がよっぽど無礼もn」
「おまわりさーんペット拉致ろうとしてるハタがいまーす」
「いやだからハタじゃねーよバカだっつってんだろうがァァァアアア!!」
「バカって認めたー!!」
「なっ!貴様ァァァァ!」
「あっははー!やっぱりバカだー!」


見事に陽に遊ばれているハタ皇子は頭にきた様子で、ズンズンと陽に詰め寄って腕を掴んだ。
それに今まで笑っていた陽も一瞬で顔を真っ青にして、ハタ皇子の手を振り払おうとする。


「ギャー!!触るなー!!鳥肌立つ!っていうか蕁麻疹出るからー!!禁断症状出るからー!!きーもーいーー!!」
「失礼極まりないぞ貴様ァァ!!」
「だっ、て……キーモーイぃぃいい!!!」
「余の何がキモイというのじゃ!」
「肌の色と頭の変な物体とその眉毛と髪と唇と服と目と顎と頬と目と…」
「全否定じゃねーかァァアア!!」
「そーだよ全否定だよォォオオ!!宇宙から消え去ればいいのに!!!」
「オイイィィィイイイ!!」


陽はそのままハタ皇子に腕を引かれ車の中に放り込まれてしまった。
ゴン、と反対側の窓に頭をぶつけ可愛くない悲鳴を小さく上げる。


「え、何この状況!」
「貴様は余のペットの餌になるのじゃ!!」
「やだよ私食べられるなら銀さんが良いー!!」


暴れる陽を無視して車を発車させる。
陽は隣にハタ皇子が座ったことにまた吐き気まで覚え思わず窓を開けた。
早く助けにきてくれないだろうか。



「ギャアアアアアアア!!ゾンビだァァァァ!!」



暫くすると、そんなじいの声が聞こえた。
ハッとして陽は運転席の方を見る。
じいの視界を塞ぐように、フロントガラスには逆さまになって貼り付く、厭な笑みを浮かべる銀時がいた。
突如そんなものが目の前に現れたら驚くのも無理はないだろう。



「オーイ、車止めろボケ」



銀時はその時後ろの席で嬉しそうに自分を見る陽にも気づき、車の上に横になりながら窓を叩いた。


「コイツは勘弁したってくれや。アイツ相当気に入ってるみてーなんだ」



「それに……そのアホ女、そいつバカでアホで変態だけどな、そいつがいなくなるとよォ、ガキ二人が悲しむんだよ」

「……銀さん…」



銀時の言葉に何故か嬉しくなっている陽。
じいは米神に皺をつくりながらハンドルをきった。


「何を訳の分からんことを……どけェ!!前見えねーんだよチクショッ!」



「うオオオオオオオ!!」



すると、そんな少女の声。
じいが窓から顔を出して後ろを向くと、物凄いスピードで走ってくるチャイナ娘…神楽がいた。
定春が連れて行かれそうなことに相当お怒りの様子だ。



「定春返せェェェェェ!!」





「やべ」と銀時は呟いて仕方なく定春を押さえつける縄を切って解放してやる。
そして神楽が襲いに来る前に銀時は体勢を変えて車の中にいる陽へ手を伸ばす。


「早く掴まれ」
「え!?あ…はいっ」


銀時の手を掴むと、グイッと引っ張られて腕の中に収められた。
初めて感じる銀時の腕の中での温もりや匂いに、一瞬状況が掴めなかった陽もすぐに顔を真っ赤にして鼻を押さえた。


(はなっ……鼻血出るぅぅううう!!)


そんな陽に気づいているのかいないのか、銀時は何も言わず定春と一緒に木に飛び移った。
定春の横に銀時、その横に陽が座る形になる。





「ほァちゃアアアア!!」



神楽は傘で思い切り車を殴り飛ばしてから気づいた。
そうだ。車には定春がいたのだった…と。

虚しくも車は湖へと落ちて煙が出てきている。
神楽は二度してしまった過ちに膝をついて涙を流した。

そんな神楽を木の上で見ながら、銀時が声をかける。


「お嬢さん」
「!」



「何がそんなに悲しいんだィ」



神楽は木の上で陽と銀時と、その銀時の腕を噛む定春を見上げて表情を明るくさせた。
噛まれたことで悲鳴を上げる銀時を気にも留めず、木から降りてきた定春に抱きつく。
神楽もまた定春に腕を噛まれているが。それでも痛がる様子もなく、定春が無事であることにただただ喜んだ。


「定春ゥゥゥ!!よかった、ホントよかったヨ!!」


神楽は今度頭を噛まれるが、どうやら効いていないのかやはり痛がる様子もなく平然と銀時を見る。
陽も何とか木から降りて同じように銀時を見た。


「銀ちゃん、飼うの反対してたのに何で」
「俺ァ知らねーよ。面倒見んならテメーで見な。オメーの給料からそいつの餌代キッチリ引いとくからな」


立ち去る銀時を追いかける陽。
そんな二人の背中を見ながら神楽は笑みを浮かべて、



「…アリガト銀ちゃん。給料なんて貰ったことないけど」











06-03  素直な人間?そんなモンいるかァァァアア!!



(ねぇねぇ銀さんっ!)
(あー?)
(銀さんは、私いなくなったら悲しむんですかっ?)
(するかバーカ。俺ァいつもどおりに過ごすね。俺は糖分とジャンプあれば生きてけっから)
(ひどっ!!絶対いなくなってから後悔させてやるー!)
(あーはいはい)