「定春ぅ〜!!こっち来るアルよ〜!!ウフフフフフ!!」 場所は変わって公園。 そこには嬉しそうに笑って傘をさしながら逃げている少女:神楽と、顔は可愛いのに何故かサイズだけは異常な犬:定春。 普通の子供ならあんな大きな犬に大きな足音で追いかけられれば泣いて逃げるだろう。 「……いやー、すっかり懐いちゃって。微笑ましい限りだね新八君」 「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ銀さん」 「いやいやあれハタから見れば巨大犬に襲われそうな少女だからね」 それをベンチに座りながら見守る銀時、新八、陽。 銀時と新八の体に包帯が巻かれているのは、定春に噛まれたからである。 「僕らには何で懐かないんだろうか新八君」 「なんとか捨てようとしているのが野生の勘で分かるんですよ銀さん」 「何でアイツには懐くんだろう新八君」 「懐いてはいませんよ銀さん。襲われてるけど神楽ちゃんがものともしてないんですよ銀さん」 「成る程そーなのか新八君」 神楽は血相を変え犬歯剥き出しに襲い掛かる定春を笑顔で止めていた。 しかもじゃれてると思っているあたり夜兎族の凄さを改めて実感する。 「じゃあ何でこのアホ女には噛み付かないんだろうか新八君」 「陽さんは反対してないからですよ銀さん」 「神楽は襲われてるのにか新八君」 「『一応ヒロインだし…』みたいな感じできっと作者にも都合があったんですよ銀さん」 「一応って何スか新八」 「偽ヒロインのくせに女扱いされてるあたり腹立たしいな新八君」 「え、何それ」 「しょーがないですよ読者逃げていったら駄目ですから銀さん」 「ちょ、新八…?否定してよそこ。何これイジメ?」 新八にまで散々言われている陽については誰も触れず、そのまま神楽と定春をボーっと見ている。 すると、暫くして神楽がこちらに駆け寄ってきた。 フーと気持ちよさそうに息を吐き、汗を流しながら銀時の横に座る。 「楽しそーだなオイ」 「ウン、私動物好きネ。女の子はみんなカワイイもの好きヨ。そこに理由イラナイ」 「…アレカワイイか?」 見れば定春がこちらに向かって走ってきてるではないか。 しかもそのまま神楽に向けて頭突きをする始末。 「カワイイヨ!こんなに動物に懐かれたの初めて」 「神楽ちゃんいい加減気づいたら?」 吹っ飛ばされた神楽はそのまま平然と定春に飛び蹴りをくらわす。 勿論、神楽は未だに戯れているつもりだ。 「私昔ペット飼ってたアル。定春一号」 「ごっさ可愛かった、定春一号。私もごっさ可愛がったネ。定春一号外で飼ってたんだけど、ある日私どーしても一緒に寝たくて親に内緒で抱いて眠ったネ。そしたら思いの他寝苦しくて悪夢見たヨ」 「散々うなされて起きたら定春…カッチコッチになってたアル」 ((泣けばいいのか笑えばいいのか分かんないんだけど…)) 涙ぐんでいる神楽とは逆に冷めた目というか呆れた目で彼女を見る銀時と新八。 その横で陽は掌を合わせていた。 「あれから私動物に触れるの自ら禁じたネ。力のコントロール下手な私じゃみんな不幸にしてしまう。でもこの定春なら私とでもつり合いがとれるかもしれない…コレ、神様のプレゼントアル、きっと…」 定春の頭を撫でる神楽はやはり嬉しそうだった。 銀時と新八は何も言わず、そんな神楽を見ていた。 「あ、酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ。定春のことヨロシクアル」 「オイちょっと待っ…」 神楽が酢昆布を買いに公園を去ってしまい、銀時と新八は背後で聞こえる荒い息に嫌な汗を流す。 確かに、これは犬の息。勿論、定春である。 自分らで、どうしろというのだろう。 「ぎゃあああああ!!!」 銀時と新八が走り出した。 それとほぼ同時に定春も二人を追いかける。 ただ一人陽だけが「あははー頑張れ二人ともー」と暢気に笑いながら手を振っていた。 06-02 |