泣いて笑ってバカやって、そんな日々を愛しく想う | ナノ






依頼主の男と銀時がくだらない言い合いをしている。会話にも加わらず案外熱心に釘を打っている陽を銀時は横目で見てから、作業を続けた。



「爆弾処理の次は屋根の修理か?」



その声に振り向く。
そこには、勝手に屋根に登ってきた刀を持つ土方が立っていた。


「節操のねェ野郎だ。一体何がしてーんだてめェは」
「土方さんだー!」


はしゃいでいる陽を銀時も土方もあっさりと無視。

銀時は土方が最初に言った「爆弾処理」という言葉にハッとする。
命がけで爆弾を処理した挙句捕まり、文句タラタラで小さなテロまでしようとしていたのだ。流石に銀時も思い出す。


「爆弾!?あ…お前あん時の」
「やっと思い出したか」


「あれ以来どうにもお前のことがひっかかってた。あんな無茶する奴ァうちにもいないんでね。近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったが、テメーなら有り得ない話でもねェ」
「近藤さん?」
「女とり合った仲なんだろ。そんなにイイ女なのか。俺にも紹介してくれよ」
「?」


土方から手にもっていた刀を渡される。
首を傾げながらも銀時は咄嗟に手を出してそれを受け取った。

真剣である。


これを見て気づいた。
そういえば先日妙のストーカーということでゴリラを退治したと。
あのゴリラも真剣を持っていた。


「お前あのゴリラと知り合いかよ。…にしても何の真似だこりゃ…、!!」



突如、始まりの合図もなく土方が斬りかかる。
咄嗟にそれを受け取った真剣の鞘で受け止めたが、足に力が入っておらず吹き飛んでしまう。


「銀さん!」
「ぬをっ!!」


そのままガタゴトと屋根を落ちていく銀時。
陽は銀時に駆け寄ろうとしたが、屋根の上ではあまりバランスがとれなかった。
銀時は何とか屋根から落ちる寸前で体勢を立て直し、土方を見上げる。


「何しやがんだてめェ」
「ゴリラだろーがなァ、俺達にとっちゃ大事な大将なんだよ」


「剣一本で一緒に真選組つくりあげてきた、俺の戦友なんだよ」

「誰にも俺達の真選組は汚させねェ。その道を遮るものがあるならば剣(こいつ)で……」


「叩き斬るのみよォォ!!」



土方が自分に向けて刀を振り下ろすが、今度はくらわずにそれを避ける銀時。
ガゴォンと大きな音をたてて、せっかく修理した屋根にある瓦が一部壊れてしまった。
煙の立つその場で一瞬の静けさの後、土方が背後から風を感じた時には既に銀時が回り込んでいた。


「刃物プラプラ振り回すんじゃねェェ!!」


銀時が土方の頭に飛び蹴りをくらわせる。
土方は体を転がすが、回ってる最中に銀時の肩に向けて刀を振り上げた。
銀時の左肩から胸にかけてに赤い鮮血が飛び散る。


「…ッ!!」


それを見て陽は思わず口元を押さえた。
刀など法律で禁止されている時代を生きていた陽にとって、漫画では大したものには見えないその傷もその場で見れば大きく見える。実際あちらの世界だったら大怪我に違いないものだ。
あんな怪我、見たことがなかった。


銀時と土方は同時に屋根に倒れた。
その音に気づいたのか、別の場所を修理していた男がこちらに気づいて声をかける。


「銀さーん、てめっ遊んでたらギャラ払わねーぞ!」
「うるせェハゲェェェ!!警察呼べ警察!!」
「俺が警察だよ」


肩を押さえる銀時の怒鳴り声に、土方が立ち上がりながら冷静に答えた。


「あ…そうだった。…世も末だなオイ」
「ククク、そーだな」


笑って余裕を見せながらも、土方は内心で首を傾げていた。
銀時が読めないのだ。
近藤の時は卑怯な手を使ったというが、そんな素振りを見せるどころか貸した刀を使う気配もない。


(まさかコイツ、自分が命狙われてるにも拘らず、俺を気遣ってるってのか)



怪我のところにタオルを置いて立ち上がった銀時が、やがて沖田の刀の柄を握った。
そして勢いよくそれを引き抜いて、鞘をその場に放る。


(フン…いよいよくるかよ)



(命のやりとりといこうや!!)




「うらァァァァァ!!」



勢いよく走り出し銀時に刀を振り下ろした。
確かに斬った感触はあった。
しかし、目の前にあったのは銀時の肩にあったはずのタオル。


その瞬間には、銀時は土方の横に回りこんでいた。


(何!?)


かわされた。




カラン、という音。


屋根に落ちたのは折れてしまった刀の先。
それは、土方の刀であり、土方が握っていたもの。



「はァい終了ォ」



目を見開く土方に向けて、肩を押さえながらも少し余裕の表情を見せた銀時。
そのまま背を向けて歩き出す銀時に陽が駆け寄った。


「銀さァァん!血が!血がァァアア!!」
「おま、煩い近づくな死ね」
「死ねってなんだコノヤロー!」


陽は銀時にそう怒鳴りながらも心底心配していたのか、戸惑った様子で銀時の肩においてある手をどかす。
血が溢れてくる大きな傷。
戸惑いや悲しみ、恐怖からだろう。笑顔ばかりだった陽が悲しそうな顔で手を震わせるので、銀時は少しだけ驚いた。


「…………」
「…何そんな顔してんだよ、大したことねーから」
「あっあるよバカー!銀さんのバカー!私にジャンプ貸さないからバチあたったんだよ!!」
「違うね神様は俺の味方だね!!」


またいつものような言い争いが始まるのを、静かに見ている土方。

土方は二つのことで驚いていた。
まず一つは、銀時が予想以上に強かったこと。
もう一つは、自分に攻撃をしなかったこと。


「おい白髪ァ!!」
「あん?」


「…てめェ情けでもかけたつもりか」


銀時は土方から視線を逸らして口を開く。


「情けだァ?そんなもんお前にかける位ならご飯にかけるわ」
「情けってどんな味ですか」
「黙れアホ女」


「…喧嘩ってのはよォ、何か護るためにやるもんだろが。お前が真選組を護ろうとしたようによ」
「…護るって、お前は何護ったんだ?」




「俺の武士道(ルール)だ」









05-02  人によっては違うけど護るモンはある



(銀さん!病院行こう病院!!)
(あーもー煩いから。行くから。お前は残れよ)
(何で!?)
(ギャラなくなったらどーすんだコノヤロー)
(えー!銀さんそんなこと言ってサボったら銀さんが捨てられずにいるジャンプ全部燃やしますからね!!ゴミの収集日だって完璧に覚えてんだから!!)
(あーはいはい(チッ))