「命張って爆弾処理してやったってのによォ、三日間も取り調べなんざしやがって腐れポリ公」 「もういいじゃないですか、テロリストの嫌疑も晴れたことだし」 銀時はやっと警察署から出れたにも関わらず機嫌が悪かった。 神楽が傘をさす横で伸びをしていた新八は、ボーっとしている陽に気づく。 「陽さん?」 「………」 「陽さん!」 「へっ?うあ、何新八!?」 「……いえ…ボーっとしてたんで…大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ!」 「ほっとけそんな救いようのねーアホ女。どうせまた変な妄想してんだよ頭の中で。痛い子ー」 心配する新八に笑って返事をしていると、横で銀時が口を挟んだ。 それにムッときて陽が言い返す。 「なっ…違うもん現実だもん!!」 「………は?」 こちらに視線が集中し、陽も言ってからハッとする。 「…………なんかあったんですか?」 「いや…別にぃ?」 「陽怪しいアル。出来たのか、この三日間でポリ公の男が出来て一線超えたアルか。相手は誰ネ、陽」 「朝っぱらからそーいうのやめません?原作より下ネタ多くなりそうですよこの小説」 「ただでさえ下品だからな、偽ヒロイン」 「偽って何!?」 銀時を少し睨んでから頬を膨らます陽。 「で、陽やっぱり出来たアルか?男」 「いや、私銀さん一筋だから…いや一筋って程でもないな」 「あれ、今設定ぶっ壊す台詞聞こえてきたんですけど」 「銀さんが一番好きだけど、他にも二位とか三位とかいるから〜」 「最低だなお前」 銀時の一撃にズンと重い石をのせられたような気分になる陽。何人もキャラを好きになることぐらい普通ではないのだろうか。仕方ない、漫画で良いシーンがあれば自然とそのキャラを好きになるはずだ。 陽は自分にそう言い聞かせながら、ふとさっきの事を思い出す。 『また会おうぜィ、陽』 帰り際、沖田に耳に息を吹きかけられそのまま耳元で囁かれたのだ。 銀時達に言えば絶対に「からかわれてる」と言われるのがオチなので口には出さない。 からかわれていようとファンにとっては最高の思い出になる。 とにかく、恥ずかしいこともあり言うことなど出来ない。 「おし、帰る前にションベンかけていこう。どーもスッキリしねーし」 「よっしゃ私ゲロ吐いちゃるよ」 「器の小さいテロすんじゃねェェ!!」 ベルトをカチャカチャと音をたてて外している銀時の隣で、指を口に突っ込む神楽。 それに怒鳴る新八は呆れて溜息を吐き、一人歩き出した。 「アンタらに構ってたら何回捕まってもキリないよ、僕先に帰ります!ちゃんと真っ直ぐ家帰れよバカコンビ!!」 帰ってしまった新八の背中を見ながら銀時はズボンのチャックを開ける手を止めて呟く。 「オイオイツッコミいなかったらこの小説成立しねーぞ。…しゃーねぇな、今回は俺がツッコミでいくか」 「オエ!」 神楽の声に見ると、足下になま暖かい液体…勿論神楽のゲロがそこにあった。 それに銀時は顔を青くする。 気づけば陽が自分たちから離れているではないか。 「おまっ…どこにゲロ吐いて…くさっ!!」 「と…遠くいても臭い…」 陽も鼻をつまんでいた。 「ん?」 すると、併を越えてきた男がこちらに落ちてきた。 素足の男が着地したのは、丁度神楽がゲロを吐いた所。しかもそれに滑って転び、頭を地面に強打する始末。 なんて運の悪い男なのだろう。 「いだだだだだだ!!それに くさっ!!」 頭を押さえている男を見ていると、警察署の入り口から役人が笛を吹きながら数人出てきた。 「オイそいつを止めてくれ!!脱獄犯だ くさっ!!」 「はィ?」 男は舌打ちすると、側にいた陽の首に腕を回し腕を掴んだ。 陽は「あれ?」と呟く。 (……神楽じゃなくて、私が人質なんだ?) どうせ無事に助かるので、驚くことも無いのだが。 「来るんじゃねェ!!この女がどーなってもいいのか!!」 「貴様!!」 「いや…別にそいつなら寧ろどっか世界の果てにまで連れてってほしいぐらいなんだけど」 「ちょっ、銀さん酷くない!?普通に酷くない!?見損なったわー、ホント見損なったわー!」 「うん、いい機会だってもっと別の男探せよ」 「やだーー!!!」 ギャーギャー騒ぐ陽に苛つきながら、男は銀時を見る。 「オイそこの白髪、免許もってるか?」 「普通免許はもってっけど」 「何でこ〜なるの?」 そんなわけで仕方なく役人から逃げる男に付き合い、銀時はパトカーを運転する羽目に。 助手席には鼻風船を作りぐっすりと眠っている神楽。陽も男に捕まった状態であるのに特に怖がる様子も見せなかった。 そして特に銀時も慌てる様子はない。緊張感のない奴らだ。 「…おじさーん、こんな事してホント逃げ切れると思ってんの」 「いいから右曲がれ」 渋々ウィンカーを出してからハンドルを回して角を曲がる。 「今時脱獄完遂するなんざ宝くじ一等当てるより難しいって」 「逃げ切るつもりなんてねェ…今日一日だ。今日一日自由になれればそれでいい」 「………」 「特別な日なんだ…今日は…」 03-02 |