泣いて笑ってバカやって、そんな日々を愛しく想う | ナノ






「生土方さんだー近くでちゃんと見れたーやっぱり格好良いー
「………」


土方は捕まったにも関わらず自分を見て嬉しそうにニヤけている陽を見て、言葉を失っていた。
今自分たちがいる部屋には他に沖田しかいない。最初は取り調べのために数人隊員がいたはずなのに。


「…何だコイツ」
「ファンです!!」
「ずっとこんな調子でさァ」


挙手をして元気に答えた陽。答えてほしいのは沖田であってお前ではない。
沖田も土方を見て、腕を組みながら簡単に答えるだけ。どうやら話は進んでいないようだ。


「あのー握手してくれませんかー?」
「…てめー今の状況分かってんのか」
「はいでも銀さんたちが色々言って出れると思うんで私は楽しみたいと思います!握手してください!サインもください!あ、でも今紙ないな…」
「……」


陽を睨んでみるが、本人は全く気にする様子もなくニヤけっぱなしだ。普通なら目つきの悪い自分…隊員でも恐れる者がいるのに。
差し出された陽の手を拒否するようにパシンと叩いたが、陽は落ち込むどころか土方に触れることが出来て喜んでいた。


土方はすぐに思った。


こいつ面倒くさい。




「…総悟、あとは頼んだ」
「逃げるんですかィ?」
「こんな馬鹿の相手してる暇はねーんだよ!」


土方は最後声を荒げると、陽を見ることもなく部屋を出て行ってしまった。
とうとう部屋には沖田と陽だけである。


「陽が変なこと言うからみんな逃げちまったじゃねェかィ」
「はい!でも沖田さんは逃げませんね!二人きりですね!」
「襲っていい?」
「はい!?」


元気いっぱい笑顔だった陽だが、平然と言いのけた沖田に驚きに表情を変える。
しかし沖田は未だに無表情。陽は困惑したまま少ない脳をフル回転させた。



(襲うって…どーいう意味!?アレのこと?え?沖田さんが私に限って?)


「男女二人きりで『襲う』って言ったら、することは一つだろ」
「……」


まるで陽の考えていることが分かるように続けた沖田の言葉の数秒後。



「────!?」



想像がついていたが、やはり沖田の言葉を理解するには少し時間を要した。
顔を真っ赤にして口をパクパクとさせている陽を見て、少しだけ可愛いなどと思ってしまう。やはり我ながら相当陽を気に入っているのだなと沖田は頭の片隅で思った。

変わった女なのに、こうして時折普通の女の反応を見せる。
そのギャップが、弱いのかもしれない。




ただの、好奇心──

そう、思いたい。

答えなんて分かっているのに、そうして理由をつけ答えから目を背ける。



(…いやいやいや、それはないって!あの沖田さんだよ!?この美青年女にモテないはずないのにそんな人が私とそんな…するわけないじゃん目ェ覚ませ陽!!これは夢小説じゃないんだから!そういうコトが上手く進むわけない!銀さんの件で痛い程思い知った!)


一方の陽は、沖田がそんなことを考えているなど知りもせず脳内で葛藤を繰り広げていた。


「あの…じ、冗談ですよね…?」
「さぁ?」
「〜〜〜っ!」



(一番は銀さんがいい!初めては銀さんがいい!でも沖田さんが…!?いやでもやっぱ人生一度なんだからやっぱ銀さんが……いやでもこんなチャンスもう無いかも……でも最初に好きになったの銀さんだし一番好きなのは銀さんだしああでも沖田さんが…ああああああああ)


脳内で銀時か沖田という思いがけない選択肢に葛藤する陽。
それを見て、自分と銀時を選んでいるのだろうなと思いながら沖田は暫く黙って見ていた。


「…………本当お前ェ、変わってるな」
「へ?」
「見てて飽きねェや」
「…………」


口を開いた沖田の言葉にまた陽は意味を理解しようと数秒言葉をなくす。
そして行き着いた結論は、



(からかわれた…!?)




「……あの一緒にいた銀髪」
「?」


少々ショックを受けている陽に気づいているのかいないのか、沖田は頬杖をつきながら陽を見ず話題を変えてきた。


「あれが、陽の好きな人か?」
「あ、はい。銀さんです」


そういえば沖田には好きな人がいることを話していた。
そのことには恥ずかしがることもせず平然と答えた陽を一瞬だけ横目で見てから、沖田はすぐ視線を逸らして「ふーん」と呟いただけでそれ以上は何も言わなかった。







03-01

思えば取り調べは真選組なのか?っていう←