泣いて笑ってバカやって、そんな日々を愛しく想う | ナノ





「ん……」
「目覚めたか」


重い瞼を動かして見えたのは木目の天井。私は覚醒しきってない頭を必死に働かせて状況を把握しようとした。
えーと、ここどこだろう。私どうしたんだっけ。

差し込む朝日の光が少し眩しくて目を細めて小さく声を漏らすと、それに気付いたのか誰かから声をかけられた。
朦朧とする意識の中聞こえた声は、機能しない私の頭を一気に動かすことが出来る程の力をもつ、大好きな声だった。


「杉ボイス!!何という素敵目覚まし時計!!」


杉ボイスを流してくれる目覚まし時計とか超欲しい。よし、いい値で買おうじゃないか!いくらだ!

バッと起き上がった私が声のする方を見ると、声の主はとてつもなく訝しげな顔をしていた。
……おっと、今はもうボイスだけじゃないんだよね。


「…お、おはよーございます銀さん。さっきのは忘れてください」
「いや無理、お前への不信感が50上がった」
「ちょま、今総合で幾つですか」
「90」
「あと10で100かぁ…!」


頭を抱える私を銀さんは布団へと戻し、大きな手を私の額へとあてる。
ちょ…!!ま…!!!


「ちょっとは下がったか。あぁ、ここ俺の部屋な」


銀さんの部屋だと…!?
ハッとして辺りを見渡すと、確かに見覚えのある部屋だ。でも見覚えがあるったってアレ。紙面とかテレビとかでね!おいいいいいままままマジすか生銀さんの部屋だぜえ…!じゃあこの布団は銀さんの布団!?今のうちに匂いをしっかりと嗅いでおこう!


「あ、服濡れてたから勝手に着替えさせたぞ。それ俺の寝間着。さっきまで着てたから汗臭いけどまぁ我慢しろよ」


枕に顔を押し付けた時に聞こえてきた銀さんの言葉に、私は顔をあげる。
そして自分の格好を見て驚いた。確かにこれは銀さんが寝てる時に身につけている甚平だ。ぎ…!銀さんの布団だけでなく寝間着まで…!?どうしよう鼻血出さないように気をつけないと…!!


………。


……あれ?
さっき銀さん「着替えさせた」って言ったよね。銀さんが着替えさせたんだよね…?
つまりそれって…私銀さんに体を見られたってこと…?
下着はつけてるみたいだけど、それでもセウトっしょ。勝負下着でもないのに銀さんに見られたんだぞ私…!!もっとまともな、色気のあるやつつけときゃ良かった!畜生!あともっと胸大きかったらよかった!


この人平然としてるよ!一応成熟した…のかな、いや胸はきっとこれから大きくなるはず!とりあえず17歳の思春期ぴちぴち女子高生の裸見たというのに、平然としてるんですけど!
私の裸じゃ興奮しないってか!所詮子供としてしか見られていないってことか!実は銀さん経験豊富…いやそれは無いな。あってほしくない。


「あー、とりあえず、熱下がったら出てけよ」
「え」
「昨日も言ったでしょーが。うちは無理だから。金ないんだってマジで」


……金ないのは知ってるけど…でも漫画だからそこらへん何とかなってんじゃん貴方達。あれ?でも今私がいるこの世界は漫画なのか?私漫画に入り込んだのか?もう訳分かんね。


「はいはい!私考えたんです!」


気を取り直して真っ直ぐと垂直に手を伸ばし、ある提案をすることにした常磐陽選手!
声を張り上げ、さぁいくぞ!



「ここって万事屋じゃないっすか?万事屋って何でもしてくれるじゃないっすか?お金は出来次第出すんで私をここに住ませてください!!家事全般私やりますから!!」



さぁ言い切ったぞ常磐陽選手!
坂田銀時の反応はあああ!?



「えーーー」



…すっごい嫌な顔された。

…お金出すって言ってんのに…家事だってやるって言ったのに…そんなに、そこまでしても私を置きたくない理由って何さ…自分で言うのもなんだけど食費ばっか嵩み迷惑ごとも増やす神楽よりはよっぽどマシだと思うんだけど…いや勿論神楽は好きだし神楽の良さだってたくさん知ってるつもりだけど……何で私そんなに嫌われてんのさ……誰か教えてくれ、じゃないと泣きそうだ私。


「良いじゃないですか銀さん」


こ…この声は


「僕らが損することなんてないんだし」
「バッカお前、今こう言ってても実際住ませてやると仕事も探さねーでグータラすんだよ!今時の若いもんは信用なんないの!」
「アンタが言えることじゃないよな」


新八ktkr!!
私の救世主で今や背中から翼が…頭にわっかが見えるぐらいだ!眼鏡をかけた天使にしか見えないぜ新八君!ここ来てから私の中でのランキングで新八がどんどんと上位へ食い込んでいくよ!


「このまま追い出したらまた外でずっと待ってますよ、きっと。この人本気です。どーすんですか、これ以上体壊す羽目になったら」


そうそう!私はいくらでも待つつもりだよ!可能性がある限り死ぬ気で待つもんね!寧ろもう銀さんと会えただけで未練ないからいつでも死ねるし!(いや正直言えば銀さんに抱きついたりとかしたいけど!)
もっと言っちゃって新八君!



「…だいたい、銀さん様子おかしいですよ?何でそこまで陽さんに冷たくするんですか」
「…別にィ?」


新八の言葉に顔を逸らす銀さんは、何か隠してるようにも見えたけど決して言うことはないだろうと何となく思った。
…あー、きっと、堂々巡り。うん…話の終わりが見えない、かな。
ここで頼み込むだけじゃ、駄目なんだ。きっと何かイベントをクリアしなきゃならないんだ。……イベント…あぁ、そうだ、まずは仕事見つけないとね。ちゃんとお金払えるように。


「よ…っこらせ…」


頭は働くけど体はだるくて仕方ない。何とかそんな体に鞭打ちふらつきながら布団を出て、銀さんの家を後にする。
昨日の雨が嘘みたいに今日は晴れていた。畜生人が追い出された時だけ大雨になりやがって。


階段を下りて向かったのは、「万事屋銀ちゃん」がある建物の一階──「スナックお登勢」




「なんだい朝早くから、うちは営業は夜──」
「働かせてください」



お登勢さんしかいない店内には、勿論営業中じゃないのでお客さんなんていない。あれ、キャサリン何でいないん。いや別に特に好きってわけじゃないからいなくても個人的に支障はないんだけど。

訝しげな顔でこちらを見たお登勢さんに頭を下げた。


「陽さん…」


新八の声が聞こえたので、下げた頭をあげて振り向く。そこには新八だけじゃなくて銀さんもいた。…一応追いかけてくれたんだ、な…それは嬉しい。


「…はれ?」


視界が揺らいでバランスをとれなくて、体勢を立て直すことも出来ずに倒れそうになる。
慌てて新八が支えてくれたけど…いやあ私倒れるのとか初めてだよ。こんな熱出すのも珍しいんだもん…高熱とかそんなに出ない元気っ子なので。
いやあ珍しい本当…はは、新八に抱きつけるならたまには熱も良いね。


「ちょっと」
「!」


新八に体を預けたままでいると、お登勢さんがやっと口を開いた。


「コイツ、お前んとこのかい?こんな状態で何歩かせてんだよ!」
「いや…だってよ」


お登勢さんにキッと睨みつけられて、銀さんは頭を掻きながら視線を彷徨わせている。


「お登勢さん!僕からもお願いします!陽さん、お金が必要なんです!帰るとこなくて…銀さんとこに住ませてもらうために、働かないといけないんです!」
「ちょ、新八、お前何やって」
「銀時ィ」
「!」


新八のグッジョブ助言の後の銀さんの声を遮るのは、いつもより少し低いお登勢さんの声だった。


「お前…居場所のないガキを追い出してんのかい」
「……え、あ…いや…」
「ろくに家賃も払えない野郎が金払わないとうちに住ませないとはどういうことだい」
「………えーと…」
「陽って言ったね。うちで良いんなら働かせてやるよ」
「ほ…ホントですか!?」


流石お登勢さんんんんんん!!
働き口を見つけるのと同時に銀さんに説教をしてくれたよ!銀さんお登勢さんに弱いもんね、家賃払わないといけないっていう弱味握られてるから!



「…銀時、次陽を追いだしたらどうなるか…分かってんだろうね」
「…!!…だーもう!!分かったよ!!預かれば良いんだろ預かれば!!何だよみんなしてよォ!!」
「やったああぁあぁぁぁぁ……」



頭は働くけど実際あんまり元気じゃないらしい私は、銀さんからの承諾を得て両手をあげて喜ぶ…けど、やっぱりバランス保てなくて後ろへと体が傾く。そこをすぐに新八が支えてくれて、私は背中を預ける形で新八の首に手をまわした。新八の顔を見上げて、おにぎりくれたこと、優しくしてくれたこと、味方になって助太刀してくれたことにお礼を言った。


「ありがとお新八ぃ…それに、お登勢さんも…」

「…銀さんも……ありがとう」


眠気に襲われて意識が朦朧とする中、最後に銀さんに笑いかけた。目が合うと、銀さんは何故か気まずそうに目を逸らしてしまった。──…どうして…?やっぱ私のこと…嫌い…?



笑顔でこれから宜しくお願いします、って言いたかったのに な







01-08  やっぱあれだよ、人間やれば出来るんだよ



(まぁ…とにかくは、銀さん家に住めるんだ。私の新しい生活が、始まるんだ)