『この戦争終わったらさ、結婚してください』 『もう、死んでる』 「……ッ!!」 ガバッと起き上がった銀時は、額に汗を垂らしながら銀色の髪をかきあげる。 辺りを見ても未だに夜が明けていないのか部屋の中は薄暗く、賑やかな町もまだ目覚めていないようだ。 「…クソ、嫌なもん見た」 銀時は独り言を呟きながら布団を捲くる。もう目は覚めてしまったし体もうっすらと汗をかいていて、気持ちよく二度寝することは難しかった。 『銀さん!あたし諦めませんからね!!ずっとここにいますからね!!』 ふと思い出したのは、昨日の少女。 今こそ晴れているが、昨日はバケツをひっくり返したような大雨だった。 まさかとは思うが…あんな雨の中外で待っている方がおかしい。 新八がおにぎりを手に家を出て行ったから、きっと少女を自宅に連れて行っている筈だ。でなければ自分に何も言わず、雨の中彼女を置いて新八が帰って行くとは思えない。 まだ寒い季節ではないが、流石に雨に濡れ外で一夜を過ごせば風邪だってひいてしまう。 立ち上がり部屋を出て玄関へと向かう。 粗末な鍵を開けてガラリと音をたてながら戸を開けてみると、薄暗い空が広がっていた。 空を見上げたまま「もうそろそろ日も昇りそうだ」と考えてから、足元へと視線を落とす。 戸のすぐ横に壁に寄りかかるようにして、一人の少女が座っていた。 「……げ」 まさかとは思っていたが、本当に待っているなんて。 そこには、確かに昨日追いだしたはずの陽。彼女はあの雨の中一人ずっとここで待っていたのだろうか。…頭が痛くなりそうだ。 風もあったし屋根があるとはいえ多少なりとも雨に濡れたはずだ。濡れた体で風にもうたれ──寒かったはずだ。 なのに、ずっと待っていたのだ。 ──この女は、なんて馬鹿なのだろう。 「……おいおい」 しゃがんで顔を覗き込めば顔を真っ赤にしていたので、額に手をあててやれば予想通り熱くなっていた。 まぁ、当然の結果だろう。 溜息を吐きながらぐったりとしている陽の体を抱きあげ、家へと戻った。 ──本当に馬鹿な女だ。 ──あの大雨の中追いだした自分は、もっと馬鹿である。 01-07 |