泣いて笑ってバカやって、そんな日々を愛しく想う | ナノ






「………んん?」



ちょっと状況を整理しようか。

うんと、いつも通り学校行って、その帰りにゲームの予約と銀魂の新巻を買って、
wktkの私は気分よく信号を待って、
その時横にいた家族を羨ましく…なんて思ってないし!!

子供の大輝君が犬が走り出したことで、追いかけて飛び出し
トラックに轢かれそうだったところを助けて、私が轢かれそうになったんだ、うんそう。


しかしおかしいな。私絶対死んだと思ったんだけど、何で道の真ん中で座ってるの?
体はどこも痛くないし、轢かれた記憶もないし…

そして私、東京のビル街にいたはずなのに、何で地面はコンクリートではなく土なの?建物は木造なの?
辺りに着物を着た人がいるの?車は何処?


…時代劇。映画村?
映画村って京都にあるんじゃないっけ?


どう考えてもおかしいんだよね。
何私瞬間移動したの?私って実はエスパーだったの?隠れた才能?うわ、稼げるんじゃね?



空をふと見上げればさっきまで昼間だったはずなのに、いつの間にか夜になっていて星空が広がっていた。…綺麗だなあ。
東京は星見れないんだよね、理由は…忘れちゃったけど。(馬鹿とか言わないで自分が一番分かってる)
やっぱりビルや街灯の灯りより、星や月で照らされる方が良いなあ。月だけでも結構明るいものなんだね。

…いやでも、街灯とか無いの怖いわやっぱ。




何でこんな人気ないんだよ…!さっき歩いてた人達にここがどこか聞けばよかった…!!



歩けばどこか知ってる場所に出るかな。でも迷子って無闇に動かないほうが良いんだよね。
…あ、そうだ携帯とかあればGPSで何とかなるんじゃね?……、そういや私バッグ全部大輝君助ける時に放り出しちゃったんだ!アーッ!


銀魂も財布も携帯も無いよ…!買ったばかりの新巻を、手にしたのにすぐに読めないなんてこれ何ていう拷問?





だいたい私は死んだのか!?

ここは何?天国なの?天国でおk?
私そこまで悪行を働いた覚えはないよ…!




「……お?」




天国であってくれ、と頭を抱えながら強く願った時
ぽつぽつと何かが私に落ちてくる。
何となく予想はついたけど、空を見上げてみれば…さっきまで星が輝いていたはずの夜空には黒い雲が覆われていた。
そこから容赦なく降り注ぐ雨。


…ちょ、どんな仕打ちだよ…私が何したっていうんだよ…

そうか…ここは地獄なのか…死ぬ直前に人助けしたけど駄目だったのか…





傘なんて持ってるわけもない私は、一人その場で雨に打たれるしかない。
行くあても頼るあてもない私は、もうどうでもよくなってしまい、びしょ濡れの制服をそのままに俯いた。



…あれ、何だか泣きたくなってきたな。

泣いてもいいかなコレ。いいよね誰も居ないもんね。







「心細いよぉ……」

「男にフられたか?」






とうとう泣き出した私に聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある…ていうか寧ろ大好きな声に酷似していた声。
誰も居ないと思ったから泣き出した私は、頬を伝う涙を拭うのも忘れて振り向く。
辺りは酷い雨なのに、私と私に声をかけたその人に雨が降り注がれることはなかった。何故なら相手が決して良い物とはいえないような傘を持ち、自分と私をその中に入れてくれていたから。




「――…」

「――!」




目を丸めて言葉も出ずに固まる私と、私の顔を見て僅かに驚いた表情を見せたその人。
相手が何で驚いたのかなんて、私には気にする余裕がなかった。

私達の間には長い沈黙が流れ、その沈黙を打ち破ったのは、未だに状況に追いつけていない私だった。





「……ふーあーゆー?」

「…あいむ銀サン」




超滅茶苦茶な発音の英語に、超適当な返答を返してくれた、銀髪の天パ。死んだ魚のような目。

私は彼を知ってる。いや寧ろ彼を忘れた日などないくらいだ。
愛してやまない、だけど――ずっと、一生手が届かないだろうと思っていた存在。





坂田銀時が、そこにいるのだ。










01-02