純愛エンプティ/溺愛cheating(8720)





「平安時代はどのくらい続いたと思う?」
「へいあん?」

参謀のベッドの上に座り、床の上に膝を付いている参謀を見下ろす。なんてことの無い日常。
「ちょい待ち、平安の次が…鎌倉じゃろ。やけん、」
「5、4、」
考える暇もなく始まるカウントダウン。起き上がった参謀の手が俺の腰を掴み、結んでいた髪をほどく。
3、と歌う声。2、と笑う唇。1、と開く瞳。

「ゼロ。」

服の裾から入り込む手。冷たいと身体をねじると、後を追うように脇腹を指先が駆け上る。反射的に痺れていると、竦ませた首元に手の熱が差し込まれて引き寄せられる。
重ねられる唇。入り込んでくる舌。ない交ぜにされていく唾液。腰骨を引っ掻く指先がくすぐったさと自分の駄目さを呼び起こすようで、意識が揺らめいていく。
正解は400年弱だ。問題の正答がなされても、今のこの状態では口実以外の何物でもない。なんてことのない日常、と組み敷かれながら俺は思う。
参謀の好きな通りにしてくれれば、それでいい。例え毎日だとしても参謀が良いなら、俺はそれでいい。



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いつも通り俺の部屋で、アイツは対して興味の無さそうな顔で雑誌を読んでいる。
昨日発売されたばかりの月刊誌。今月の特集は年中行事絵巻から読み解く平安朝廷。文字ばかりの普段の構成よりかは幾分か読みやすいが、どうだろうか。
最近アイツが読む雑誌の種類は広がりつつある。テニス関連の雑誌はさることながら、統計学・史学・化学。流石に放課後だけでは読み切れないせいか、小説雑誌は手を付けたことがない。
言えば貸してやるのだがと思いながらデータの入力を続ける。と、同時に我が立海テニス部でもタブレット端末を導入してこのデータを試合現地でも活用できれば良いだろうなとも考える。
しかし一応個人の名前や嗜好なども入っていることを思い出し、クラウド化ではなくローカルでの情報表示程度に留まりそうだと思い至ったところで背中側に置いてあるベッドが軋む音がした。
椅子の座面だけで振り返ると、アイツはうつ伏せになり肘で上半身を支えながら雑誌を読んでいる。見開き2ページに5分28秒。読んでいない訳ではないが、さしずめ興味のある部分のみ読んでいるといったところか。
時折膝を曲げて爪先を天井に向ける。その足がぱたりと落ちて、上半身がだらりと伏せられる。そしてまた数分後には元の通り片手に顎を乗せ、ページを捲る。俺はこの行為の意味を考えた。

「平安時代はどのくらい続いたと思う?」

枕元の床に膝を立てて座り込みながら、アイツと視線を合わせる。するとアイツは普段は見せない丸く輝く目で俺を見る。
「へいあん?」
この部屋に来てから2時間24分もの間声を出していなかったせいか、アイツの舌が濁る。しかしそれを気にする様子を全く見せず、アイツは身体を起こしベッドの上に胡座をかく。
「ちょい待ち、平安の次が…鎌倉じゃろ。やけん、」
予想した通り、即答が出来ない。俺はその事に気分が良くなりながら、アイツとの距離をゆっくり詰めていく。
使い込んだ黒のベルトが右手の指先に触れる。湿気の欠けた髪からショッキングピンクの輪ゴムが何の抵抗もなくするりと外れた。アイツは恐らく無意識で目を細める。
「5、4、」
左の膝をベッドに上げ、口にする数字の分だけ時間を待つ。アイツは開きかけた唇を再び閉じ、僅かに笑う。恐らくこれも無意識なのだろうが、それで充分だった。

「ゼロ。」

軽くアイツの肩を押せば、一部分だけ伸ばした後ろ髪が群青色のシーツに広がる。光の加減で白にも銀にも見えるその色は、蛍光灯の下ではきちんと銀に見えた。
雑誌を読む行為に大した意味はない。要するに暇なのだろうと、俺はアイツの首に指を巻き付けながら考えていた。





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