4.典型的な殺し方(8720)





参謀ぅ、と甘く絡まる声が背後から聞こえた。ざっと枝木が擦れ合う音がした後、腹部に腕が巻きつく。
振り返ってみると銀色の頭に緑葉がちらほら見えた。忍者か、と思いつつもそれらをつまみ、1つずつ落としていく。
「寝てたのか。」
「寝てたら降りんじゃろ。」
「訂正する。暇を潰していたのか。」
「んー……?」
額を擦り付けながら仁王は柳の背中に埋まる。全ての葉を落とし終えた柳は軽く手で髪を払った。
「いや、木に登りたかったけん登っとった。」
「なるほど、行為の結果より行為そのものに理由があったか。」
柳は腹部の前で組まれた手をトントンと指先で叩く。やんわりと腕がほどかれるが、今度は首に巻かれた。
肩にずっしりと加わった重さに仁王の体重の変化を思いながら、今度は柳が背後へ腕を回す。気付いた仁王は少し爪先立ちになり、背を折り曲げる柳に身を任せる。
「参謀は無いん?」
「何がだ?」
「やりたいけんやるってこと。」
柳は一度座り込み、後ろに回した腕を仁王の太股と膝の裏に絡める。そして靴底に力を込めて立ち上がり、背中に背負った仁王の重心を定めた。
「あまり無いな。」
「そうなん?」
「結果の為に行動することが殆どだな。」
「ほう…せやったら今何でおんぶしとるん?」
「したかったからだな。」
柳の後頭部に顎を乗せた仁王はにんまりと目を細める。落ちないようにより首に回した腕を狭め、柳の耳元の唇を寄せる。
「参謀ぅ。」
「何だ?」
「好き。」
「あぁ、俺もだ。」
ふふふと仁王が笑うと柳もつられて笑う。春の穏やかな陽射しが注ぐ庭園を進んでいると―――

「……何をしとるんだ、お前らは。」
思わぬ邪魔が入った。

「何だ弦一郎。」
仁王を背負ったまま、柳は曲がり角から現れた真田に視線を向ける。平然とした柳の口調に真田は眉間に皺を寄せ、両腕を組んだ。
「…何をしとるんだと聞いたんだ。」
「見ての通りだ。」
「全く分からん。」
「雅治を背負っている、以上だ。」
簡潔に答えた柳は再び歩き始める。待て、と真田は腕を解き、柳の腕を掴み掛ける。と、その瞬間柳の背に乗っていた仁王が振り向き、手刀で真田の手を払い落とした。
驚愕の顔の後、真田はきっと厳めしく鋭い眼差しを仁王へ向けて名前を呼ぶ。柳の時とは違い、至極面倒そうに上体を起こした仁王は左手を離し、文句あり気な真田に向けてひらひらと振って見せた。
「別にええじゃろお前さんに迷惑掛けとる訳じゃないんじゃし。」
「悪目立ちしとるではないか!」
「んなもんお前さんが気にすることじゃなか!」
待たんかと尚叫ぶ真田を無視して柳は普段通り歩く。全くと仁王は元通り柳の首元に顔を乗せ、ひひっと喉で笑った。
「あいっかわらずうっさいオッサンじゃのー。」
「まぁアイツの仕事だからな。」
「別におんぶしとるぐらい問題無かろうに。」
「そうだな。校則にも特に抵触しているということは無いな。」
「悪目立ちって…お前さんが言うかって話よなぁ。」
2人で笑い合いながら、柳と仁王は中庭を抜けて玄関に入る。先に3−Bの靴箱の前で仁王を下ろした柳は、すたすたと棚を1つ挟んだ場所にある自分の靴箱に向かった。
最近取り付けられた蓋を開け、脱いだローファーを上靴に取り替える。潰れかけた踵を人差し指で戻していると、きゅっと目の前の床が鳴る。
「さーんぼ。」
「何だ雅治。」
柳が屈んでいると待っていたかのように仁王が上から覗き込む。普段は見られない下からのアングルに、柳の口元を微笑みの形をとった。
「次何処行く?」
「残念だがそろそろ終わりだな。」
見ろと柳が柱に掛けてある時計を指差す。昼休憩の終了10分前を示している長針にちっと小さく悪態をつき、仁王は首元の髪を払う。
上靴を整えた柳は立ち上がり、目を少しだけ開いて隣の仁王を見る。少ししてから視線に気付いた仁王は目をくるりとさせてから、いつものように不適な笑顔を浮かべた。
「何ね参謀。」
「お前が屋上に行きたい確率、73%。」
「なしてそれを今言うと?」
「俺が行きたいからだ。」
事も無げに言ってのけた柳に思わず仁王は噴き出してしまう。くくくと笑いつつ、仁王の腕は柳の肘を捕らえる。そしてその勢いのまま、柳を一歩前へ押し出した。
「それもう俺関係ないやん。」
「お前が居ないと俺が屋上に行く理由が無い。」
「何やそれ。」
相変わらず素直やないのう。踊るような足取りで前を進む仁王はそう言いながら振り向く。
いつものことだろう。その堪えきれていない緩んだ笑顔に含み笑いを返しながら、柳はぽんと仁王の頭に手を置いた。



[End.]


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