2.戯言で人を殺す(8720)





「参謀ぅ。」
「何だ。」
「話し掛けるんに理由が要ると?」
「あぁ、あるだろうな。」
「要るんやなくてあると?」
「行動は感情の発露だ。感情は理由があってこそ生じることを踏まえると、今お前が俺に話しかけたのには理由があると考えるのが自然だろう。」
「はん…別に無かよ。お前さんがそこに居ったけん、話しかけただけよ。」
「ならば『そこに俺が居た』と言うのが理由だろう。もっと言えば俺がここに居てお前が話し掛けるかどうかを決定するのにも理由があると言える。」
「一応付き合っとる相手を無視して通るんもおかしな話じゃろ。」
「では俺とお前が付き合っていなければお前は俺に話しかけなかったのか?」
「それは無いやろ。」
「何故だ?」
「おんなじ部でおんなじレギュラーじゃ。気まずぅなるじゃろ。」
「ではお前と俺に特別な関係性がなければ」
「それは無いじゃろ。」
「何故だ?」
「現に俺とおまんは関係がある。そんな質問自体がおかしい。」
「しかし可能性としては存在していただろう?」
「はっ、『していた』ってお前さんが言うた時点で可能性なんか無いじゃろ。」
「ふむ…行動が感情の発露であるならば、言葉は深層心理の表現と言うことか。一理ある。」
「何言いよるかよう分からんが……お前さんが納得したならそれでええよ。」
「で、何用だ。」
「用なんか無いわ。お前さんが居ったけん呼んだだけよ。」
「ほう。」
「さっき言うたやん。」
「そうだったな。」
「…あー、別に何も無いつったら無いことも無いんじゃけど。」
「ほう、何だ?」
「……蓮二。」
「どうした突然。」
「抱き締めるんに理由が要ると?」
「あぁ、あるだろうな。」
「…ぶっ、くくくくくくくくく……」
「どうしたいきなり笑い出して。」
「いや……何でじゃろうな、お前さんと話しとうと面白ぉてしゃあない。」
「御評価いただき恐悦至極。」
「へっ…ホンマにそう思っとるんやが。」
「さっきも言ったが言葉は」
「わーったわーった。お前さんの心の表れっちゅうんじゃろ。」
「そうだ。」
「じゃあ、何か言うこと無いと?」
「……えらくストレートだな。」
「言わなお前さん気付かんじゃろ。」
「まるで俺が鈍感であるような言い方だな。」
「鈍感じゃろ。普段はあんなどうでもええことばっか気付く癖におかしなやっちゃ。」
「あぁ、お前のことは分からない。」
「参謀にすら分からんとは詐欺師として恐悦至極よ。」
「だが分かるぞ。」
「何がよ。」
「今俺が『分からない』と口にした瞬間、お前の顔の左半分に僅かながら緊張が生じたことが見えた。」
「…ほう。」
「人間の顔は右側が余所行きの顔、左側が本音の顔と表すとされている。その左側の顔に緊張が生じるというのは不安や怒りといった何かしらマイナスな感情がお前の心中に発生したと考えていいだろう。つまり、お前は俺の発言によってマイナス感情を少なからず抱いたと言える。」
「ほう。で?」
「…好きだ雅治。お前の全てが愛おしい。」
「……ホンマにかぁ?」
「ならばそう思う理由を全て挙げてやろう。」
「ほぉ、言ってみ。」
「まず外見だな。乾燥気味の肌は体温が低く、こうして抱き締めているとまるで蜘蛛の巣に絡めとられたように離れられなくなる。」
「蜘蛛の巣やったら内心嫌なん?」
「違う。俺が離そうと思っても見えない糸で絡められる感覚……そうだな、お前が離れ難いと感じているのが伝わってくる、と言っても良いな。」
「妄想じゃろ。」
「では何故俺がそのように妄想するのか。」
「お前さんの方が俺から離れとぅないっち思っとうから。」
「何故だ?」
「何でも理詰めのお前さんは俺から離れたくても離れられない理由が欲しい。しかしお前さん自体は離れたいと思っとるけん離れられると思うとる。
 でも離れられん。せやったらもう自分には理由がない。じゃあってなったら、もう俺にしか理由が求められん。て、ことと違う?」
「なるほど責任転嫁か……お前は嫌か?」
「何が?」
「俺から離れたいと思わないのか?」
「離れる理由が無いぜよ。」
「ほう……ではお前も離れたくないと思っているから離れるという選択を取らない。それは『離れる理由がない』ではなくて『離れたくない理由がある』ということだな。」
「どっちも一緒じゃろ。」
「あぁ。一緒だな。」
「……まったく、素直やないのぅ。」



[End.]


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