[君に好きだと言えたなら](ユキ→アカ)





幸村部長、とまるで太陽のような声がした。
振り返ると赤也が立っていた。夏の向日葵を思い起こさせるその笑顔は俺には眩し過ぎるほどの光だった。

「やぁ赤也。」
「委員会っすか?」
「うん。見ての通りね。」
花壇の前に座ったまま、肩に掛けた学校指定のジャージをちらりと見せる。と、赤也はにたっと何か言いたそうな笑みになった。これは多分あれかな。
「幸村部長ってそれも背中に掛けるんすね。」
制服と同じ色をしたジャージを視線で指しながら、赤也は想像通りの台詞を言った。俺はちょっと面白い気分になりながら、立ち上がる。
「何ていうか、気が付いたら羽織ってるんだよね。」
「やっぱ部長っぽいっすよ。そうやってる方が。」
部長っぽい、ってどっちなんだろう。俺っぽいのかな、それとも、『部長』っぽいのかな。
夏が過ぎても放課後はまだまだ暑い。俺は赤也に一歩近付いて、自分の体温がもう1度ほど上がったように感じた。
「赤也もやってみる?」
「何をっすか?」
「ジャージ、羽織るの。」
するりと肩の緑を落として、左手で差し出す。赤也は少し右上を見て、何事か考えているようだった。
何を考えてるんだろうか。俺のこと、だと嬉しいな。
自分の顔が微笑みを浮かべている意識はあるものの、そう見えている自信が多少足りない。震えていないのは分かるのに、左手が微妙に動いている気がして、落ち着かなかった。

「やっぱいいっす。」

6秒後ぐらいにそう言って、赤也は頭の後ろで指を組んだ。そうなの、と思わず俺は落ち込んだ声を出してしまったが、赤也は気にしていないようだった。
「なんかそのカッコって、幸村部長だから似合う気がするんすよ。」
「俺だから?」
「なんつーか…見慣れてるって言うんすかね。そのカッコ。」
さりげなく混ぜた疑問を悟られないように俺はジャージを両肩に戻した。うろうろと空を見上げている赤也は、少しだけ唇を尖らせている。
「幸村部長以外の人がやってるのが想像できないっつーか、似合わないっつーか…」
不自然に台詞が止まる。俺は首を傾げる。
そしてぶふっと噴き出すような笑い方をした赤也は、微かに揺れている声で話を続けた。

「…副部長がやってんのとか、マジ似合わないと思いません?」

赤也の言葉に一瞬で俺の脳が反応する。
学校ジャージを肩で羽織る真田。テニス部ジャージを両肩に掛けたまま試合を始める真田。冬服のジャケットを、と3枚目の映像が来る前に、俺の口元が限界だった。
噛み殺せなかった笑いが僅かに開いた口先から滲み出る。ふふふふと笑う俺に、赤也は楽しそうにでしょ?と問いかけてくる。
「あいつ絶対3球目ぐらいで『邪魔だ』って脱ぐんじゃないの?」
「それありっすね。『ここから本気で行く』とか言って…。」
くくくくと赤也が喉だけで笑う。いつもとは違う控え目でひそやかな声の笑い方。
まるで赤也と秘密を分かち合っているような、そんな優しくて柔らかいこの雰囲気を俺は愛おしく感じた。

「なんで、その着方は幸村部長だから似合うんすよ。」

そう言って赤也はまたにっこりと笑う。俺は自分の頬がほんのり熱を上げたのを感じていた。
「分かった。ありがとう。」
「どーいたしまして…って何で俺ありがとうとか言われてんす?」
「ん? だって、」
君が好きだから。頭の中だけでその言葉を流して、俺は赤也に答える。
似合ってる、って言われるのって結構何でも嬉しいじゃん。代わりに用意した答えに赤也はまた輝くような笑顔を見せた。
「じゃ、オレは何が似合うっすか?」
「……俺の後輩?」
それ似合うとか関係ないじゃないっすか。そうしてふてくされた赤也は腕を組んで俺を睨む。
本当は俺の『恋人』がお似合いだって言いたいんだけどねぇ。頭に浮かぶ本音を隠すように、俺は少しだけ曖昧に笑って見せた。



[End.]


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