3.奇跡を信じたリアリスト(現実主義者)





この世界は見えるものが全てだと信じていた。
あの夏の日、膝から崩れ落ちた彼は持っていた力を全て否定された。
絶対的な王者、完全なる勝利者。ダークブルーに波打つ髪を揺らしながら、いとも容易く栄光を手にしていた彼が、初めて敗北の土にまみれた。
執念、固執、妄執。血走る瞳に宿る渇望は底恐ろしい感覚を足下から這い上がらせ、更には背筋を凍らせる。
しかし、それでも、彼の背中から目を離せなかったのは、心の何処かで期待していたからだった。
彼ならばきっと、これからでも、圧倒的な力で以って、小さなあの少年を捩じ伏せてしまうのだと。『神の子』と呼ばれる彼ならば、きっとと。
恐らくあの場に居た全員が願い、望み、信じただろう。彼は負けない、彼は勝つ、それが約束なのだからと。

―――……勝たんかー幸村ー!!……―――

この世界は見えるものが全てだと信じていた。
ただ、その時だけは、存在すらしない奇跡を信じていた。



[End.]


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