[庭球城決戦から妄想](立海大体全員:赤也が出て行ってから真田が追いつくまでの他のレギュラー陣について)





「見つかったかい?」
「いや、こっちには居なかった。」
「こちらもです、宍戸君が言うには出て行ってからそんなに経ってはいないようですが……。」
「そうか……。」
病院の廊下。ある扉の前では芥子色のジャージを着た少年達が複数名立ち尽くしていた。
クラックに襲撃され入院している筈の切原が居なくなった。よりにもよって不自由の多い異国での失踪。流石の事態に、引率役の部長・幸村は頭を抱える。

「まいったな、赤也英語出来ないのに。」

日本での英語の試験は軒並み壊滅状態だった後輩の頭を思い、溜息をつく。と、そこにもう1人同じ服の少年が加わる。
「気にするとこそこじゃなくね?」
「おかえりブン太、そっちも見つからなかったようだね。」
発言を無視された丸井は慣れたように肩を竦めて、両手を挙げる。その声には若干色々な意味で呆れた色合いが混ざっていた。
「まぁな。今ジャッカルが病院の外に居た人に赤也見てねぇか聞いてる。」
「苦労かける。」
「気にすんなぃ。悪いのは全部あのバカヤなんだからよ。」
「そりゃまぁ事実やの。」
「仁王、君の方はどうだい?」
「トイレの個室にこれが置きっぱやった。」
丸井の背後から現れた仁王は幸村の傍にあったベンチに向かって、手にしていた物を投げ飛ばす。
赤いTシャツに黒のジャージパンツ。期待に違わぬ証拠品に、幸村は思わずこめかみを押さえて俯く。
これで分かるのは外へ出るのにわざわざ着替えたということ。では何故着替えたか、その理由は簡単だ。
「…蓮二、赤也の病室とロッカーから無くなっていた物は何だい?」
「言わなくても大体分かるだろう。ユニフォーム一式とラケット1本だ。」
その瞬間、廊下に何とも言えない空気が流れる。
英語が出来ない上に喧嘩早い後輩が、テニスをする道具を持ち出して、トイレで着替えてまで逃げ出した理由は1つしか無い。
自分を病院送りにした相手―――クラックと決着をつけるため。アジトの場所は大方他校生の誰かがうっかり口を滑らせたのだろう。
病室で着替えて出ていなかったのは恐らく同室の人間を置いて行く為。後、と幸村は不気味に押し黙ったまま隣に立っている副部長を横目で見る。
……なるべく1人で決着をつけて、立海の掟である『常勝』を守る為。昨日そんなに真田が怒らなかったのが効いたのかと他人事を考えながら、幸村は肩に掛けたジャージをもう一度引き上げる。

「幸村!」

廊下を走る足音。病室の扉の前に集まっていた立海レギュラー陣は顔を上げ、音がする方へ注目する。
「ジャッカル、どうだった?」
「赤也が駅方向に行くのを見たって奴が、何人か…」
余程急いだらしく、持久力自慢のジャッカルの額には汗がちらほら滲んでいる。まったく、と幸村は再度呟き、それから他の6人に視線を向ける。
「みんな分かってると思うけど、赤也は多分クラックのアジトへ向かった。」
「でもよぅ、アイツ場所分かんねぇんじゃねぇの?」
「アジトへ向かうには川を上った方が早い。一番近くの船着き場まではおよそ5km。また昨日の観光ルートでバスの窓から場所を確認済みの赤也がそこへ走って向かう確率は…」
「言わずもがな、100%ですね。」
「まぁアイツやったら分からんでも出ていくやろ。」
「そして道に迷って警察のお世話になる……のが一番ベストだけどね。」
持ち前の短気と赤目が出なければそれでいいと、幸村が付け加えると周囲の人間は無言で頷いた。手の掛かる後輩と共に過ごした2年間の経験が生み出す諦めは伊達ではない。ともかく、と気を取り直して幸村は顔を上げる。
警察から呼び出されるにしろ迷って帰ってくるにしろ、いつかは赤也は病院に戻ってくる。それまでは自分が指示を出すまで合宿所の敷地から出ないこと。何かあったら取り敢えず行動する前に自分に伝えること。
そうした顧問・部長同士の取り決めを再度伝え、解散を告げる。結局無駄骨に終わった探索に、レギュラー陣は溜息交じりの空気を漂わせながら廊下の向こうへと消えていった。

残ったのは幸村、と真田だった。
幸村はまたもや目だけで横を見る。普段規則や決め事にうるさい隣の人間が、切原が居なくなってからは一言も発していない。それどころか、腕を組んだまま身動き一つしていない。
加えて普段以上の無表情に、怒気さえ感じられない気配の無さ。感情を削ぎ落としたような真田の空気に、思わず幸村の口から先ほどまでとは違った「まいったな」が漏れ出る。
「真田。」
少ししてから腕を解いて歩き出した真田を、幸村は呼び止める。真田は立ち止まるが振り返らない。大体分かるってのも幼馴染の面倒臭いところかな、と内心呆れながら幸村は言葉を続ける。
「さっきも言ったけど、俺から指示があるまで立海生は動かないこと。君は副部長だろう?」
「……そうだな。」
いつもより数トーン低い声。何でそこで同意するかな君はと思っていると、つい溜息が出た。
「ハァ……もしかしたらクラックの残りがこっちをまた襲撃してくるかも知れないのに。」
真田の肩がぴくりと動く。しかし振り向かないところに幼馴染の欠点が如実に表れている。まるで誰かさんそっくりだ。
……まぁその『誰かさん』が俺も心配なんだけどね。仕方ないけどと幸村は肩のジャージに手を添え、歩き始める。
俺が居るから大丈夫だけどね。追い越しざまに真田の右肩に軽く手を載せてそう囁き、その後手を上に挙げた。

「くれぐれも赤也の邪魔にはならないようにね。」

ひらひらと数回挙げた手を振り、廊下を右に曲がる。そしてエレベーターへの道を数歩進んだところで、真反対へと駆ける慌ただしい音が廊下中に響いた。
再び病院の廊下は静まり返る。幸村は軽く目を閉じ、これからの事をイメージした。
同室の柳と柳生にはすぐにでも、他のメンバーでも夕食時ぐらいには気付くだろう。顧問の先生方は多分約1名を除いて苦い顔をするだろうが、他の学校の子と一緒に話せばいい。
まったくもって面倒臭い。やれやれと疲労感を背中に覚えつつ、幸村は目を開け下りボタンを押した。



[End.]


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