×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


love philter


軽音部室に入るのは初めてだ。

だから、その扉を開けた瞬間、その部屋の薄暗さと、かすかに漂うこもった熱量と気だるげな行為の雰囲気に、眉をひそめた。およそ不健全で、天使と形容される英智にはふさわしくない。

もっとも――一時間前に名前に施した行為もまた、天使にはふさわしくないのだけれど。

「逃げる場所はここしかないって思っていたのだけれど、やっぱりここだったんだね」

穏やかな声色で、英智に背を向けて名前のことを抱いていた青年に目を声をかける。衣服をすべて纏ったまま、床に座り込んで名前を抱えあげる、いわゆる対面坐位だった。白い脚が零の身体に力なく纏わりついていて、目を凝らせば、白濁と処女膜の赤が混ざった液が彼女の太ももにこびりついていた。

先を越されたなぁ、くらいの感慨だった。もとより英智は、零がこういうことをするのは想定の内だったから。

向こうもおそらくそうだろうが、さすがに英智が軽音部室にまで踏み入ってくるとは思っていなかったのか、あからさまに不快そうな声をあげた。

「あぁ……? いまさら来たって遅ぇぞ、根暗くん?」
「おや、すっかりおじいちゃんの振りはやめたのかな。なりふり構ってられないなんて、魔王様らしくないじゃないか」
「くっくっく……ジョークじゃよジョーク。ま、この時ばかりはちと素が出るのは否めんがのう……」

僅かに英智のほうを振り返り、紅い目がじろりと英智を見つめた。
悪魔め、と罵りたい気分だったが、やめる。どうせなら、初夜くらいは楽しくいきたいものだ。

「えいち……」

英智の声に気づいたのか、ぐったりと零の身体に凭れて瞼を閉じていた名前が、かすれた声で呟いた。聞くものが心配せずにはいられないような、可哀そうな涙声だった。

「薬はまだ抜けてない?」

英智が跪き、零の肩越しに話しかける。零がうざったそうにため息をついて、ずるりと萎えた肉棒を抜いた。

「っ……あ、んっ」
「抜けてないみたいだね」
「英智、ん……」
「おや……」

名前はすっかり、熱に侵されたらしい。零の代わりに、自らを抱き上げてくれた男に、優しく唇を寄せてくれた。夢にまでみた彼女とのキスは、案外簡単にかなってしまった。

唇を重ね、素直に口を開く名前に「良い子だね」と褒めて、舌を差し込む。零に抱かれた後だからか、元気がない。英智のしたいようにさせてくれる彼女のことが、いとおしくもあり、憎くもあった。何もかも、零の後だと意識させられるので。

「名前の処女は取られちゃったし……そうだなぁ、じゃあフェラしてほしいかな。朔間……くん、まださせてないでしょ」
「処女にさせる訳ないじゃろ……」
「良かった。ほら、名前。フェラってわかるよね?」

名前はこくりとうなずいた。英智は行儀悪くも胡坐をかいて、ごくゆったりとベルトを外した。取り出された一物は、すでに半分起ちあがっていた。名前はぼんやりと英智を見上げて、何をしたらいいかも分からない様子だった。

「うん……じゃあまずは、歯を立てないように、咥えてみて」
「ん、ふぁ……」

名前はおずおずと唇を開き、英智の亀頭の部分をはむっと咥えた。行為の後のためか、咥内もかなり熱かった。膣に挿入しているのと似た感覚を覚えるので、心地よい。

「うん、じゃあ次は、舌を使って……ちょっと、朔間くん?」

英智のそこに顔を埋める名前は気づいていないらしいが、零がいつの間にか名前の後ろに回っていた。そのまま乱雑におのれの一物を取り出すと、軽く自分で数度扱いていた。ゆるく立ち上がり始めたそれを、名前の小ぶりなお尻にずるりと擦り付けると、「あ、」と名前が小さく声をあげた。

「邪魔しないでほしいのだけど」
「どうせ二人おるのじゃし、どうせなら一緒にしたくないかえ?」
「僕は名前と二人でしたいから、そこで視姦するくらいに留めてほしいなぁ……まぁ、どうせ君のことだから聞かないだろうけど」
「ご明察じゃよ、天祥院くん」

そういうと、零は名前の腰をつかんだ。既に一度侵入を許した割れ目は、二度目の侵入はずいぶんスムーズに許してくれた。名前はびく、と肩を跳ねさせ、英智のものから口を離してしまった。

「名前、無理に咥えなくていいよ。どうせ朔間くんに無理やり突き上げられて何もできないのがオチだ。手と舌を使って、うまくできるね?」
「う、ん……」

英智に優しく頭を撫でられ、名前は反り立った肉棒に優しく手を添えた。お尻だけを零に突き出した格好にさせられているので、冷たい床に柔らかそうな胸を押し付け、必死に英智のそれを拙く舐めていた。正直まったく上手くはなかったが、視覚的な要素と、たまに零の突き上げによって、英智のものに頬ずりするような行動をとる名前が可愛くて仕方ない。

「ふふ……上手だね、名前」
「んっ、えいち……」

とろんとした目で英智の顔を見上げる名前。頬をすりすりと撫でてやれば、僅かに口元が綻んだ。

「名前よ、我輩のことを置いてきぼりにしないでくれると、嬉しいのじゃが?」

今までわざとおとなしくしていた癖に、零がそう嘯いて強く名前を突き上げた。夢見るように英智を見上げていた名前が、突然の快楽に悲鳴を上げる。

「あっ!? や、れいさん、あぁ」
「これこれ、天祥院くんのもきちんと奉仕してやらぬか」
「んぐっ!?」

零の手が名前の頭に触れ、やんわりと英智のそれを咥えるように押した。喉の奥のほうに入ったのか、名前は少しえづいたようだった。生理的な涙をぼろぼろと落とす姿は、何とも言えない征服感を煽ってくる。

名前が咥えたのを確認すると、零は一気に律動を始めた。名前は英智のものを噛まないようにするので精一杯らしく、くぐもった喘ぎ声をひっきりなしに上げていた。喘ぐたびに吐息が英智を刺激して、だんだんと吐精感が沸き上がってきた。

「っく……名前、ごめん」
「んん〜〜〜っ!?」

英智が名前の頭を掴み、上下に動かし始めた。ぐぽぐぽといやらしい音が響き、名前が自らで奉仕していた時とはけた違いの刺激が襲い掛かる。英智は美しい白磁の肌を薄らと染めて、好きな女の子の咥内を愉しむことに決めた。

「はは……壮観だなぁ、名前」

あの頃の荒い口調で、零がポツリとつぶやいた。細く汗ばんだ背中には、零のつけた跡が点々と散らばっていた。視線を手前に寄せれば、零のものを咥え込む、処女を失ったばかりの秘所。奥に寄せれば、他の男の――天使のような風貌をした天祥院英智のものを口で奉仕する名前の後ろ頭が見える。

少女なんて、初めから存在しなかったような光景だ。
ここにいるのはもう、零の――いや、零と英智の望んだ女だけ。

「名前、――今度こそ我輩を選んでおくれ」

英智でもなく、彼女が無意識に慕うあの男でもなく。
その誘いは、悪魔の言葉のように名前の耳朶に染み込ませることにした。きっと、天使にも吹き込まれるだろう、呪いの言葉だ。