immortelle
「ねぇ、名前。これあんたにあげる」
「え? これ……」
「この前の仕事場で貰ってきた、ユニセックスのネックレスなんだけどさぁ。俺、特に使う予定ないし」
きわめてシンプルな銀色のネックレス。ユニセックスとは言っているが、この細い形状はおそらく女性寄りのモノなのだろう。名前は、手のひらに落とされた銀色を眺めている。
……少し頬を赤く染めて。
「泉、ありがと……」
「べ、別に、いらないものだから押し付けただけだからねぇ?」
「うん。でも、嬉しいから」
「ふ、ふぅん……」
泉と名前が、恥ずかしそうにお互いから微妙に視線を外す。近寄れば二人分の心臓の鼓動が聞こえてきそうなほどに、素直な恋情を示す反応だった。なんて清らかで、汚れなく――
妬ましいのか。
「っていうか、これこのまま使う気〜?」
「え? うん、そうだけど……」
「シンプルすぎでしょ。こういうのはね、指輪を通したりするのが普通なんだからねぇ?」
「そうなんだ……指輪かぁ」
そうつぶやいた名前に、泉は何か言いたげな顔をしていた。やがて決心がついたのか、彼はゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、今度俺と――」
だが、それを傍観するほど、英智は優しくなかった。
「やぁ、名前に瀬名くん」
「!」
あからさまに名前はびっくりした顔をしていた。なるほど、告白してきた人間に、自分の好きな人がバレそうだと無意識に察しているのかもしれなかった。
残念ながら、もう知っているのだけれど。
「な、なに、あんたどっから湧いてきたの〜?」
「湧いてはないよ。きちんとそこの廊下から歩いてきたんだ……おや。名前は素敵なものを持ってるね」
「あ……」
名前が英智の表情を伺うよう、そっと覗き見てきた。びくりと肩が跳ねたので首を傾げる。どうしたのだろう、そんなに自分は怒った顔をしているのだろうか。鏡がない以上、真相は分からないが。
そんなことより、今は絶好の機会だ。
だって――彼女に指輪を送り付けることができそうなのだから。
(ごめんね瀬名くん、君の幸福を奪い取ろう。僕はもとより、他人のシナリオを上書きするのが得意だから――こうするほかないんだよ)
だから、泉と名前の淡い恋も、書き換えてしまうのだ。真っ黒ならぬ、真っ白なインクで塗りつぶすように。