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アヴェンジャー、笑って×A3!

「MANKAIカンパニーにようこそいらっしゃいました! 私が支配人の松川です!」
「主催兼総監督の立花いづみです。一か月間宜しくお願いしますね、プロデューサーさん!」
「あっ、はい! 初めまして、私は――」

蝉も元気に轟く七月、後半。
世間一般の高校生が、夏休みの始まりを感じている今日この頃――私はなぜか、天鵞絨町の数ある劇団のうちの一つ、『MANKAIカンパニー』へ研修に行くことになっていた――!

Act!Addict!Actors!

「今回、夢ノ咲学院さんの方にプロデュース科の方を一人お借りして、プロデュース業について教えて頂きたいと思ったのは私でね。ごめんね、貴重な三年生最後の夏休みを半分くらいつぶしちゃって……」

申し訳なさそうに、いづみさんが苦笑した。なるほど、いきなり椚先生に呼び出されたときは心臓が止まったし、『MANKAIカンパニー』で一か月間勉強してきなさいと言われたときは「???」と疑問符しか飛ばなかったが、そういうことだったのか。

「『MANKAIカンパニー』の現状について、椚先生か、もしくはそこのもじゃもじゃの支配人さんに教えてもらった?」
「もじゃもじゃとはなんですかっ!」

むきー! とか、迫力ゼロで怒る支配人さんをしり目に、私は首を振る。

「現状? えっと、この前春組の千秋楽で大成功をおさめられたと……」
「やっぱりかぁ……」

はぁぁ、といづみさんが盛大なため息をついた。

「実は……」



多額の借金!
秋組と冬組、総員ゼロ名!
全期の千秋楽で満席にしなければ、即取り壊し!

とまぁ、ピンチをこれ以上ないほど煮詰めた現状。なるほど……確かにこれは、いづみさんがため息をついたのにもうなずける。

「いやいや、しかし貴方が来てくれて助かりましたよっ! 夢ノ咲学院のプロデュース科の生徒さんに、演技指導をお教えするというのが交換条件でしたので、これがうまくいったら、あのアイドル育成業界の大御所かつ多額の資金を持つ名門、夢ノ咲とつながりが……!」
「支配人、大人の汚い事情が丸出しです。しまって」
「はい、スミマセン」
「あはは! 面白いですね、支配人さんって」
「こんな大人になっちゃダメだからね? とりあえず、汚い事情も見られたことだし、気を楽にして生活してほしいかな」

にっこりといづみさんが笑う。大人の女性って感じで、頼りがいのある人だなぁ。

「プロデュース科の人たちって、今はマネージャー業もやってるんだって聞いたんだけど、あってる?」
「ええ、そうですね。プロデュース科がそもそも私含めて二人しかいない、新設の科なんで、慢性的に人手不足と言いますか……」
「あー、すごい分かる。うちも人手不足なのよね。でもマネージャー業もできるなら、お願いしたい仕事は主にそっちになるかも。私が個人的にお勉強するときは、プロデュースについて教えてほしいんだけどね」
「構いませんよ。慣れてるので!」
「ありがとう! うちもいつかはマネージャーさんとか雇わなきゃならないなって思ってるんだけど、とりあえずは手の空いてる私がこなしていかなきゃ駄目だから……」

うわー、プロデュース科とほぼ同じ状況だ。人手不足だと、どうしても裏方が何役もこなすことになるんだよね。

「あの、私も演技指導の方法を勉強させていただくので、気にしないでください! よろしくお願いしますね、いづみさん」
「ありがと、そういってくれると助かる。演技指導は惜しまず教えてあげるから、頼ってね。今は夏組が、千秋楽の為に頑張ってるんだけど……」
「監督、夏組はまだ余裕がないんじゃないですか?」
「そうなんですよね。という訳で、プロデューサーちゃん……いや、マネージャーちゃんと呼ぶべきかな? とりあえず最初の一週間は、春組と一緒に過ごしてもらえると嬉しい!」

春組っていうと……この前『ロミオとジュリアス』で大成功を収めたチームだろう。うう、緊張する……。

「わ、わかりました……頑張ります!」
「あ、そんなに気負わなくても平気だよ。結構ゆるいというか、フレンドリーな人だらけだから。あと学生が多いから、きっとすぐ親しめると思う」
「そうなんですか?」

よかった。大人に混じって仕事というのは、何度こなしても緊張するので……学生が多いなら、夢ノ咲と同じ感覚でできるだろうか?

なんにせよ安心だ。

とりあえず今日の校内SNSに乗せる定期報告には、いい記事が書けそう。

椚先生に夏休みの宿題の代わりとして、『MANKAIカンパニー』での活動日誌を校内SNSに上げろと言われたのだ。サボったら絶対怒られるので、忘れないようにしなければ……!

と私が意気込んでいたそのとき、後ろの扉が音を立てた。振り返ると、そこにいたのは鮮やかなピンク色をした髪の青年だった。

「監督! あのっ、夢ノ咲の生徒さん来ましたか? オレ、待ちきれなくって!」
「監督以外の女に、興味ない……」
「マネージャー業やってくれるんだって? もしかして、俺のAPとかLP漏れを調整して貰える可能性が……」
「ワオ、素敵なレディが来たネー! JRだヨー!」
「JKな。なんで鉄道会社の人が派遣されてくるんだよ」

わいわいがやがや、という表現がぴったりな感じで、ピンク髪くんの後ろから続々と劇団員らしき人たちが入ってくる。

「さっそく大歓迎されてるね、マネージャーさん」
「あはは、優しそうな人たちで安心しました。えっと……春組の皆さんですよね?」
「あ、はい! ご挨拶がおくれてすみませんっ、俺は佐久間咲也です! きみと同じ高校三年生なので、仲良くしてくれると嬉しいかな!」
「佐久間くんかぁ」

さっきから『いづみ』さんといい『さくま』くんといい、聞きなれた名前や名字に近しいものばかり聞こえてくるため、なんだか安心感が勝手に湧いてくる。

「あ、嫌じゃなかったら名前で呼んで! ほら、真澄くんも自己紹介!」
「……真澄。以上」
「短いネー。観察だヨ」
「たぶん、簡潔? あ、俺は茅ヶ崎至ね。最初に言っておくと、趣味はゲームで休日は部屋に籠ってたいタイプ。よろしく、マネージャーちゃん」
「簡潔、それネ! ワタシはシトロンっていうヨー。カントクにプロデュース業を教えるなら、ワタシにも日本語を沢山教えてほしいヨ! 今後ともごひいきに!」
「ごひいきにじゃなくて宜しく、だと思うけど。……あ、俺は皆木綴っす。大学生だけど、気軽に接してほしいかな」

この騒がしさ、まったく夢ノ咲のアイドル達と同じ感覚だ。
ひと夏の思い出――そんな大輪の花が、満開に咲きそうな予感がした。



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