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Valkyrieと女王

「あっ!」
「あ、影片くん」
「騎士の姉さん! えろう遅くまでに学校におるんやなぁ」
「そのあだ名は……どうなんだろうね」

放課後、中庭を何となく散歩していると、大阪弁が私の耳に飛んできた。
明るい顔でこちらに駆け寄ってくる、オッドアイの男の子。彼は帝王たる宗が率いる『Valkyrie』のメンバーの一人。彼はリーダーである宗を崇拝に近い形で信頼している。

そして……私だけが一方的に思っているのかもしれないが、ともかく宗と友達(のはず)である私を、姉さんと呼んで好いてくれている。最初こそ人見知りが発動してぎこちない挨拶をかわしあったものだが、今では駆け寄ってくれるくらいに慣れてくれたようだ。

「ええやん、騎士の姉さん。かっこええやろ?」
「そうかなあ……なんか任侠映画の姐さんみたい」
「じゃあ、お姫様?」
「よ、余計に恥ずかしくなるからだめ!」
「お師さんはお姫様って呼ぶほうが喜びそうやけどなぁ」
「お姫様は、マドモアゼルのほうが似合うよ」
「せやかて、マド姉はマド姉やもん。じゃあ、女王様かいな」
「そちらのほうが幾分かマシだな。君がお姫様など、笑いすら起きない」

影片くんの顔がぱぁぁ……! と輝いたので、私の背後で唐突なdisをかましてきた相手が誰かは明白だ。

「宗くんひどくない?」
「事実を述べたまでだ」
「返す言葉が一つも見当たらないっ!」

相変わらずつんつんした態度だけど、これでも十分心を開いてくれたほうだと思う。彼は人形のように完璧なものが好きだけれど、完璧じゃない私と会話してくれる。影片くんもまた、完璧ではないけれど、それでも宗くんはなんやかんや大事にしている。

「あはは、お師さんと騎士の姉さんは仲良しやねえ」
「影片。はしたなく大口を開けて笑うものではないよ。『Valkyrie』は常に優雅であるべきだ」
「あっ……やってもうた」

素直に反省したように、口を押える影片くんは可愛い。まだ一年生だし、うぶなところが魅力的だと思うんだけどなぁ。宗くんはそういうの嫌いだし。

「今日はなずな居ないんだね。ユニット練習じゃないの?」
「今日は手芸部の活動だ」
「あっ。そういえば騎士の姉さん、『りゅ〜くん』さんから裁縫習っとるんやろ? 調子はどうなん?」
影片くんが思い出したように言った。
そう、私は鬼龍くんから裁縫を習っているのだ。今の『Knights』はあらゆる面で余裕がない。衣装も委託するより、誰かが作ったほうがいいだろうという事で、裁縫の得意な鬼龍くんからビシバシ指南を受けている。

「ぜんぜんダメだよ……」
「騎士の姉さんも、おれと一緒で不器用やもんなぁ」
「……君、鬼龍から裁縫を習っているのか」
「あれ、言ってなかったっけ。そうだよ、『Knights』の衣装作りたくてね。でも中々、思ったようにいかなくて」
「……いま、作品を持っているか?」
「あるある。カバンの中に一着入れてる」

宗くんに言われ、ごそごそとカバンを開けようとすると、彼は満足そうに頷いた。

「失敗作の作る失敗作はひどいモノだからな。君も大差ないだろうから、想像がつく」
「こらこら宗くん、影片くんでしょ」
「ええんやで騎士の姉さん。失敗作でも、お師さんの人形に変わりはないからな!」
「言われてみれば確かに。デレたのね、宗くん」
「ノンッ! 口ばかり動く時点で真摯さが見られん。裁縫に対する情熱が足りないね。二人とも、今日は僕がみっちり技術を叩き込んでやろう」
「わーい! お師さんが教えてくれるって!」

影片くんが私の手をとってぴょんぴょん跳ねる。優雅じゃない、とまた一蹴を食らうのは目に見えているけど、

ちょっと待て。
いま二人って言ったよね?

「え、私も鬼の扱きに参加?」
「当然なのだよ。むしろ施しに感謝するといい」
「頑張ろうなっ、騎士の姉さん!」
「こ、断れない空気――!」

必死に言い訳を考えようと思ったけど、宗くんが珍しく満ち足りた顔をしているし、影片くんの喜びをぬか喜びにしたくない。
それに、二人と居れる機会は少ないし。

「あー……うん。お手柔らかにお願いします」
「鬼龍の目をむくほどの進化を与えてやろう。覚悟してくれ」

三人一緒に、校舎へとUターン。
帰るころには手だけミイラ男ならぬミイラ女になる覚悟を決めた。



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