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硬派なナンパ


「日渡さん!」

友達数人と帰っていたところ、突然誰かに呼び止められた。振り返ると、そこに居たのは茶髪に黒メガネ、そして何より鮮やかな青色をした制服を着た生徒。――アイドル科の男子だ。

この時点で友達からニヤニヤとした視線を受けている気がしたのだが、待って欲しい。なにか決定的な誤解が生じている。

「えっと、貴方はたしか……」
「ああ、覚えていないか? 無理もないな、あんなに人がいたんだ……改めて名乗らせてもらう、俺は守沢千秋だ。この前、地下ライブハウスで――」
「ううん、もちろん覚えてるよ! 守沢くん、ステージで頑張ってたもんね」

悪評が流れる『流星隊』に所属する生徒にしては、異色の存在だと、後から敬人に教えて貰ったのだ。そういう意味もあって、守沢くんのことを忘れるわけにはいかない。

「そ、そうか。頑張ってるふうに見られてたなら、嬉しい」

守沢くんは素直に喜んでいるのか、恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いた。零さんと言い敬人と言い、アイドル科にはひねくれた人だらけなのかと思っていたけど――そうでもないらしい。

「ちょっと千夜、アイドル科の人にナンパされてる〜!?」
「やだ〜、うらやまけしからんわぁ、この美少女!」
「LINEで結果教えてね〜♪ じゃ、あたしたち邪魔だからこのへんで!」
「えっ!? ま、待って皆!? 守沢くんみたいな良い人がナンパなんてするわけな……行っちゃった」

訂正する間もなく、きゃあきゃあ言いながら去っていく友達。くっ、普段まったく欠片も恋愛興味ない人たちばっかりなのに……! こういう時さらっと見捨てて帰っていくのどうかと思うの!

……とまあ、守沢くんの前で言うのも失礼だし、すぐに向き直る。

「ご、ごめんね守沢くん。ナンパなんて失礼なこと言わせちゃって」
「えっ! い、いまナンパと思われてたのか!?」
「あはは……いやでも、気にしないでいいから。私はそんなこと思ってないよ」
「そ、そうか……すまない。普段あまり、女の子に話しかけることがないものでな……誤解を招く対応だったのだろうか……」

困ったように守沢くんが目を伏せて考え込む。そこまで気にしないで、とひらひらと両手を振ると、彼はふっと気を抜いたように笑ってくれた。

「守沢くんみたいなイケメンが話しかけてきたら、みんな少しは期待しちゃうものだよ」

釣られて私も気が抜け、笑いながら本音を零した。すると守沢くんは、また恥ずかしそうに頬を赤くした。

「い、イケメン!?」
「アイドル科なんだし、そんなに驚くことかな……?」

零さんなんかは俺と居れて幸せだろ〜とか言っちゃうくらいなのに、守沢くんは謙虚だなあ……。

「ああ、いや……そうかもしれないな。ありがとう日渡さん、少しまた自分に自信が持てそうだ」
「あはは、それはどうも」

確かに、あのライブハウスで守沢くんは、どこか自信がなさそうだった。どこかビクビク怯えながら歌っていた気がする。彼の口調と態度には齟齬があった。――まあ、そこまで初対面で突っ込むとドン引かれるのが普通なので言わないが。

それに今の彼は、びくびくしているというより、異性の私と居るのに緊張してるみたい……? 女の子慣れしてないのかな。アイドルなのに。

「で、私に声をかけてくれたってことは……何か用事があるのかな?」
「あ、ああ! そうなんだ、実は日渡さんに頼みがあって」
「頼み?」

なんだろう、と思って首をかしげると、守沢くんはぐっと拳を握った。覚悟を決めた、というような顔だ。な、なんだろう。

「――頼む! 俺に連絡先を教えてくれないかっ……!?」
「……えっ、え?」

これじゃまるでナンパみたいだ。しかも真剣な。

「あ、あの守沢くん……構わないけれど……」
「ほ、ほんとうか!? ありがとう、嬉しい!」
「う、うん……」

余りにも爽やかに笑うので、今度はこっちがドギマギする。

なんで私なんかの連絡先が欲しいんだろう……? と思いながらスマホを取り出す。守沢くんもスマホを取り出し、SNSのIDを交換し合った。

「守沢くんのこと、友達に追加しとくね」
「ああ、ありがとう! いや〜、助かった! 緊張して死ぬかと思ったが、ちゃんとお願いできて良かった。これで、日渡さんに天祥院の様子を聞けるな!」
「……えっ?」

思わず聞き返すと、守沢くんはああ、と思い出したような顔をした。

「あ、すまない。言ってなかったな。俺、ライブハウスで天祥院が倒れたのを見たから、心配だったんだが……俺は天祥院の連絡先なんて知らないからな。蓮巳や日渡さんが彼と親しいっていうのを人づてに聞いて、どちらかに聞こうと思っていたんだ。……だから今日、日渡さんにあえてラッキーだったな」
「な、なるほど……そういうことだったんだね」

ちょっとナンパみたいとか思っちゃってた手前、今度はこっちが恥ずかしくなる。守沢くんは真剣に考えてたのに……反省せねば。

「いや、しかし本当に緊張した。あの夜、日渡さんがなまじ男子制服を着てた分、今日セーラーを着ているのを見て、改めて女の子だったんだと思ってドキドキした……」
「……守沢くんって、よく発言の意図を勘違いされてない?」
「え!? なぜわかった!?」
「ふふ。内緒だよ」

女の子慣れしてなくても、彼は女の子に困ることはなさそうだなぁ……とぼんやり思った。

「今度、一緒に英智のお見舞い行く?」
「え……いいのか?」
「うん。きっと英智も喜ぶよ」
「そうか……分かった。じゃあまた、日渡さんに連絡しよう」
「オッケー。じゃあ、守沢くんまたね」
「ああ!」