×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


platonic love


「思えば、こうして二人で腰を据えて話せたのって、今が初めてだね? まったく、『Trickstar』の子たちは賑やかで、僕も巻き込まれざるを得なかったね」
「ふふ。そう言いつつ、ずっと楽しそうだったよ、日和」
「まぁ、僕は結構、彼らのことが気に入ったね! だからこそ、望まれた爆弾は投下したよ。【SS】で型落ちしたみたいなパフォーマンスを見せられたら、がっかりしちゃうからね」
「大丈夫。『Trickstar』の皆は、逆境からの勝利! が典型パターンなの」

日和と二人、ゆっくりとソファでくつろぎながら語り合う。窓からは夕日が差し込んでおり、彼らの乗る列車の時間がだんだん近づいてくる。

「ねぇ、英智は爆弾って表現したけどさ。きっと『Trickstar』の皆は、そんな凶器だって思ってないよ、今日のことは。綺麗な夏の思い出って受け取ってると思う」
「無駄に嫌われなくて済むのは、良いのか悪いのか知らないけどね。ふふ、お人よしの塊みたいなユニットで、嫌いじゃないね」

彼の嫌いじゃないは、好きって意味だ。微笑ましく日和を見ていると、なんとなく察したのか、「じろじろ見ないでほしいね」と少し頬を赤くして、ティーカップに口をつけた。

「――ともかく。千夜ちゃんの方こそ、どうだったんだい」
「え?」
「身一つで来たくなったのか、気になるね?」

――ああ、ジュンくんの言葉か。
身一つで『Eden』の元へ来たくなるくらいのステージを見せる、といったたぐいの台詞だったと思う。

そもそも、私を夢ノ咲から連れ出そうと最初に言ったのは貴方なのだ。忘れるはずもない、あの賭けを。

「『Eve』のファンにはなったけど……この身はそんなに安くないんだ。いや、実際ほんとの意味で『私だけ』なら安いもんだけどね。色々と複雑に絡み合った事情が、恩情があるし。全部放り出していくには、まだ足りないや」
「ふむ、それは『Knights』のことかな? それとも五奇人の、あるいは英智くん?」
「すべてだよ、日和」

夢ノ咲のすべてが、意味を持たない『私』に、価値を、夢を与えてくれるのだ。だから、それを手放すほどの恐怖を乗り越えてまで欲しくなるものは、そうそうないはずだ。

そういう気持ちを、なんとか言葉にして伝えると、日和はやれやれといった様子でため息をついた。……けれどそれは、なにか満足そうな色をもっていた。

「生意気にも、千夜ちゃんは『Eve』だけじゃ物足りないって言うんだね! うんうん、傲慢だね!」
「ふふ、傲慢で結構。ここに居たおかげか、私もすこし、欲深くなったかも」
「うん。前の君は、誰かの欲望に沿わないと何もしない影のようだったからね。幸いにしてここは、欲深い人間の宝庫だから、君にはぴったりだったみたいだけどね!」
「辛口だなぁ。ふふ、でもそうだね。ずっとレオの後ろで、誰かの夢を見て生きていたけど……ちょっとは成長したでしょ?」
「そうだね。……誰かの夢の為じゃなく、君の夢の為に、『Trickstar』の子たちに試練を与えるのに協力したらしいしね! かといって、【SS】の頂点を譲ってあげるとは言わないけどね?」

日和はずいぶん楽しそうに笑っている。どうやら、『Trickstar』を敵と認めてくれたらしい。そう考えると、今回の目的は達成されたんじゃないかな。

「いいよ、譲ってくれなくても! 『Trickstar』は自分で奪い取りにいくと思うし」
「ますます冬が楽しみだね? とはいえ、まだ秋があるけれどね」
「そうだね。秋が来たらまた、日和たちにもう一回会えたらいいな」
「欲のない子だね? もう一回? バカ言わないでほしいね、ぼくはぼくの権利を行使したいからね!」
「権利?」

いきなり何の話だろう。
きょとんと日和を見上げていると、彼はいきなり私のおでこに自分のおでこを当ててきた。ち、近いぞ。

「賭けのこと、忘れたなんて言ったら、このままキスしちゃうからね?」
「えっ、あ!? キス!? じゃなくて、賭けのこと!? 覚えてるに決まってるよ!」
「うんうん、じゃあぼくに与えてくれた餞別も覚えてるよね?」
「あ……そうか。次会うときは、努力と魅力と説得で専属プロデューサーへの勧誘をすること……」
「そうそう。次って別に、たった一度に限られた話じゃないはずだね? だから、ぼくはこれからも君に、説得というお題目で会いに来るよ。それとも――それすらもう、迷惑なのかい?」
「――まさか!」

そんな嬉しいお誘い、思ってもみなかった。
だって、この夢ノ咲に居たときは生まれなかった絆が、今ここにある。それが、今回限りにならないなんて、こんな幸せなことはない!

「迷惑なんかじゃない。私だって、また日和に会いに行くよ」
「……そう。ふふ、いい心がけだね、千夜ちゃん!」
「ジュンくんにも会いたいし。それに言ったでしょ?」
「うん?」

今度は日和がきょとんとする番だ。私はふっと笑って、彼の目を見た。

「私、『Eve』のファンになったんだから。これからも私の憧れの、すてきなアイドルでいてね」
「――君は、まったく……ぼくは悪くないね、これは英智くんの監督不行き届きのせいだね?」

その言葉とは裏腹に、日和の笑顔は優しかった。頬に何か柔らかいものが掠めたので、ああ、キスされたのだと悟る。外国人みたいなことするな、と思った。あまりにも今の雰囲気が柔らかく、親しみ深いものだったから、驚きはそこになかった。

「じゃあ、勧誘はこれからも続投だね。きっと、僕らが生きてる限り、ぼくらは何回だって会えるね! とっても良い日和……♪」

夕焼けに、夜の紺色が混じり始めた。
夏が貴方たちを連れて去ってしまう前に、もう少しだけ語り合おう。違う場所で生きていく、大切な友達と。