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loser


「千夜も大概じゃのう。我輩の言った通りに物事を進めてくれるのが、たまらぬ程かわゆいところだったのじゃが……?」
「ふふ、僕の言うこともちゃんと聞いてくれてがっかりしたかな?」
「ふむ。まぁ否定はせぬがのう、それは我輩の個人的な感情でしかない。今一番考えるべきことは……」

そこで零は、呆然としている転校生の方を見据えた。

「転校生の嬢ちゃんが、この『爆撃』が来ることを分かっていながら何もしなかったことではないのかえ? 『Eve』のプロデュースは千夜が行う……そう言われた時点で、なぜ『私は『Trickstar』を』と思わなんだ。冷淡ではないかえ、というかいっそ薄情ですらある」

ステージの上、アイドルたちは二グループに分かれて踊っている。日和とスバルと真緒のグループと、真とジュンと北斗のグループだ。

本来は――最初『Eve』が提案してきた案は、センターに『Eve』、サイドに『Trickstar』というもので。さすがにそれは北斗が却下したらしく、その後このフォーメーションを組んだらしい。

が……。

「『Trickstar』の一番の強みを、千夜は既に知っている。彼女は真っ先に彼らを二つに分けてしまったね。人数上の計算では『Eve』の方が少なくて、素直にユニットで二つに分けてはそれだけでも不利になるけれど……『Trickstar』を分解してしまったら、元から二人しかいない『Eve』の二人は自然と目立てる。三人グループの中に、一人だけ毛色の違うアイドルだからね。結局、最初の『Eve』が目指した【『Trickstar』は『Eve』の引き立て役】が成立してしまった。『Trickstar』の皆は引き立て役を防ぐために抵抗したけれど、思いっきり逆手に取られてしまった」 
「このやり口をえげつないと恐れるかえ、嬢ちゃん。しかしこれが一年前の夢ノ咲じゃ。泥臭くて血なまぐさい、どんな聖人だって鼻をつまんで逃げ出すような戦いじゃ。知らぬ存ぜぬでは、この場では生きていけぬ」

一年前。
転校生には知らない世界だ。二年生の皆に聞いても、彼らすらあまり知らない世界。だから、こんなのは知らなかった。

――なんて、恐ろしい。

ステージ上で輝く『Trickstar』の皆を見つめる。そう、輝いているのに……光に呑まれていく。転校生の周囲から上がる歓声が『Eve』を謡う。二つに分けられた『Trickstar』の皆が頑張っても、それは何処まで行っても『Eve』の流儀に染められたパフォーマンスで、『Eve』の二人を目立たせていく。

何をしても詰むしかないゲームだ。どこに駒を置こうとしても、次の一手で駒が取られるのが分かってしまうような絶望感。

「なんで……ですか? どうして、何もできないんですか……?」
「手を出せないように、この数週間で完璧に根回しされておったのじゃよ。後方支援もない陣営が勝てると思ったのかえ、嬢ちゃんや。おぬしはそこまで自分を軽く見るというのなら、残念じゃがおぬしは『プロデューサー』にはなれぬよ。――『Trickstar』を見つけたのは誰じゃったかのう、嬢ちゃん?」
「ふふ、心して聞きなさい、あんずちゃん。彼がこんなふうに真っ向から、厳しくお説教するのはけっこう珍しいんだ」

お優しいからね、と付け加えられ、零は若干居心地悪そうに肩をすくめた。

「いや、千夜には幾度となくお説教もお仕置きもしたぞい? じゃから、転校生ちゃんは間違っても『自分は出来ない人間』と思わんでおくれ。むしろおぬしは、千夜に比べたらお説教の回数ははるかに少ないのじゃよ?」
「ほら見て、優しいでしょう。それに若者は失敗するのも仕事だからね。だから今日の君の仕事は、失敗に悔し涙を零すことだ。そしてそれをバネにして頑張りなさい。……ああ、じゃあ最後に、この記憶が鮮烈になるよう、最後の苦言を呈そう」

英智は柔らかくそう笑った。転校生は当然固まるが、零は「まぁまぁ、肩ひじ張らずともよい」とぽんと軽く肩を叩いた。その言葉に、少し力を抜いた転校生を確認しつつ、英智はその言葉を口にした。

「知らないのが君の罪だよ」

――それは運命的にも、あのステージにいる誰かさんにかつて向けられた言葉なのだ。