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encounter


「あー、早く着きすぎましたねぇ……?」

駅前で、ジュンがそう呟いた。時刻は午前10時45分。約束の十一時までだいぶ時間があった。やはり、慣れない土地だと移動の時間調節が難しい。ひとまず、涼しい室内に入りたいので駅の構内に入った。

「んー、ちょっと飲み物でも買ってみたりしましょうかねぇ……? 喉も乾いたような気が」
「でしたらこちらを! 先ほどコーヒーを買ってきたので!」
「あ、茨。どうも悪ぃっすね…………はぁぁ!?」

一瞬あまりにも自然だったので流しかけたが、待て待て可笑しい。と、ジュンは心中でツッコミながら振り返る。するとそこに居たのは、やはり『Eden』のメンバーの一人……自分と同学年の男、七種茨だった。

「あんた、なんでこんなところに居るんすかぁ!?」
「あっはっは、ナイスリアクションですねジュン! もしやバラエティ番組を狙っていらっしゃるのでしょうか、さすが向上心の高いお方! ハイエナの名は伊達ではないですね!」
「うるせーっすよ、誰がバラエティ番組狙いだっつの。というか質問に答えてくださいよぉ、まさか夢ノ咲へ偵察ですか?」
「いえ、夢ノ咲学院ではなく、あるお方へ顔を売りに行くところでして」
「あるお方……? あ、もしかして噂の転校生さんすかね」
「ご明察ですね! ええ、早いうちに存在を示しておくことで、敵の命綱を握る権利もより早く手に入れられますからね」
「まだサマーライブも終わってねえうちからっすか? やめとけやめとけ、あの人パンクする気しかしねーんで」
「おや、そうですか?」
「『Trickstar』もろくにプロデュースしに来ねえ有様っすからねぇ、お忙しいんだろうな〜と勝手に想像してるんすけど……事情があるんすかね?」

まぁ知らねえけど。と適当にジュンが呟いた。『Trickstar』をプロデュースしているのは生徒会や教師陣ばかりで、噂に聞いていた転校生はまったく顔を見せやしない。というか、見せに来たとしてもそれだけだ。何かもの言いたげな顔はすれど、何も言わない。

何がしたいのだろう、とジュンは首を傾げて不思議がっていたけれど、日和も千夜も不自然なくらい何も言わないので、彼らの意に背くことはできないジュンもだんまりを決め込むことにしている。

ジュンのその情報を聞いたからか、茨もふむ、と腕を組んだ。

「そうですか……。プレッシャーを与えるだけならば、今日はやめておきましょうか。威圧は警戒心に繋がるだけですし」
「それが得策っすよ。んじゃ、オレはこれで」

千夜との待ち合わせの時間も近くなったので、さっさとこいつの前から姿を消そう〜というジュンの魂胆は、彼の眼鏡のレンズ越しに透けて見えていたのか。がっしりと腕を掴まれ、逃走は阻まれる。

「な、なんすか? オレ、夢ノ咲の人と待ち合わせしてるんで急いでるんすけど」
「いえ、自分としたことが! 直接あなたに聞いておきたいことがあったのをすっかり忘れていました! 時間を無駄にさせることをお許しください!」
「いや許さねえんで。どうしてもって言うなら、今すぐ要件を喋って退散してくれませんかねぇ? あとで電話なりメッセなりで返事をしたらいいんでしょう?」

そう言うと、茨はさすがに駄目とは言えなかったのか、渋々頷いた。

「はあ、まぁ構いませんが。質問があるんです」
「なんすか」
「サマーライブの、ステージでのフォーメーションの事ですよ。自分の出した案と、大幅に変更されていたでしょう? あれについての具体的な説明と効果の予想をお教えして頂きたい」
「はぁ? ……いや、オレに聞かれてもねぇ……あれは千夜さんの案だし……」
「千夜さん?」
「げっ。いや、なんでもねえんで。今の名前は秒速で忘れてくださいよぉ?」
「ええ、いま確かに素敵なお名前を脳に刻み付けましたとも。なるほどなるほど、となると貴方たちの支援をする夢ノ咲の生徒とやらが、『千夜さん』ですか。これですべての謎が解けましたよ、ありがとうございます……ジュン」
「!? もしかして、転校生さんの話題はダミーだったんじゃ……」
「あっはっは! いやあ、ジュンの心が単純……いえいえ、美しくて助かりましたよ! ではごきげんよう、素敵なデートを!」
「あんた、また他人のLINEを勝手にハッキングしたんじゃ……殺す!」
「この国は非暴力が大原則ですよ〜? あーっはっは、自分がクズで今日も飯がうまい!」
「このド性悪毒蛇……」

大笑いして去っていくクズ野郎(※仲間です)の背を睨みつけるも、追いかけたところでジュンに利益は一つもない。大きくため息をついて、額に手を当てた。

「はあ……ほんと、またデートが台無しにされるとこだっての……。ま、これはデートというか、ゲーム媒体を通した宣伝なんすけどね……茨のやつLINEの言葉通りに受け取ってるみたいっすけど……」
「あ、ジュンくん! こんなところに居たんだ!」
「え?」

振り返ると、今度こそは待ち人が姿を現した。夏の暑さに耐えかねたのか、髪をポニーテールにしていて、制服ではなく私服だ。ああ、そういえば自分も私服を持ってきているのに、なぜ制服で来たんだろう……とジュンは自分の長ズボンを恨めしく見つめてしまった。

「ごめんね〜、やっぱり中の方が涼しいよね。待ってて暑かったの?」
「あ! す、すんませんっ、オレすっかり場所離れてたの忘れてました!」

気が付けば時計の長針はとうに12を過ぎていた。茨に絡まれたせいで……と恨みに思いつつも、自分の責任でもあると結論付け、ジュンは素直に謝った。……千夜が茨に絡まれる可能性を生み出した事実込みで。

「気にしないで! じゃあ、さっそく行こっか!」
「うっす」

まぁもちろん、千夜は七種茨なんて男は知らないので、謝ったところでどうしようもないのだが。