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ピンポンパンポーン。
というおなじみの放送音が響き、放課後の賑わいが一瞬静まる。その静けさを割るように放送で喋ったのは、珍しくも佐賀美先生で。

『あー、三年B組、名字名前。お客さんがいらっしゃってるので、至急職員室の俺の机まで。繰り返すぞ〜、名字〜お客さ……っておい、あんたこっち来たらダメだって』
『おお、これで声を届けておるのか。ある……否、名前よ。三日月だ。すまん、『仕事』の最中に加州とはぐれてしまってな……とりあえず迎えに来てくれると助かるぞ』
『おいおい迷子宣言かよ。ま、いいけど……つーわけで名字、早く来ること』

ピンポンパンポーン。
というおなじみの放送音で締めくくられる放送。
……各方面からの視線がすごく痛い。気が重すぎるが、そそくさと席を立ちあがって迷子のお月様を迎えにいくことにした。

「じゃ、じゃあ私は今日はこれで……」
「誰なのです」
「ひぇっ」
「先ほどの三日月という方はどなたですか、お姉さま!?」

司くんがずい、と迫ってくる。こう来ると思ったよ……けれど説明できる気がしない。だって三日月は――三日月宗近は、人間ではないのだから。

21世紀に現れた時間遡行軍を倒す――それが彼ら刀剣男士と、何の因果か審神者の権限をリアルに得ちゃった私の使命だ。



「ちょっと三日月! 俺は『校門で』待ってろって言ったよね!? なんで職員室なんて場所にいるの!?」
「うむ、すまんな加州。いやしかし、こうしてある……名前と予定より一時間も早く合流できた。結果おうらい、というやつだな、はっはっは」
「何にも良くないから! もー! 名前もなんとか言ってよ!」

悠長に笑っているモデルのような美貌の青年と、最近のDKらしい整った容貌の青年。どうやら制服から察するに、他校生で。……と、こんな具合に『Knights』の皆の目に映ってることを祈る。まかり間違っても太刀とか打刀とかバレたら困る。

というか、三日月は今にも『主』と呼んできそうなので割とマジで危険だ。

「あ、あはは……やー、三日月はおっちょこちょいだなぁ。午後六時に校門前って言ったのにね」
「ほんとだよ! も〜しっかりしてよね!」
「うんうん。でもまぁ、来てしまったものは仕方ないね。という訳で、『Knights』の皆さまどうかこれにて帰らせては頂けませんかお願いします」
「却下」
「デスヨネ……」

真顔で全否定してくる泉に力なく返答する。まぁ、今日は『Knights』のレッスンの日だったしね……最近ずっと『Trickstar』にかかりきりだったにも関わらず、もう帰りますとか許してくれないだろうとは思っていたし、虫のいい話だとも思う。

とはいえ……どう考えても目立つ三日月と清光をこのまま置いておくわけにもいかない! たぶん清光がストッパー役として死ぬほど苦労する羽目になるだろうし……。

「ていうか、あんたら誰?」

凛月が珍しく、眠たげな顔をせずにじっと二人を見ていた。清光は私と視線を合わせたあと、友好的な笑顔を浮かべた。

「どうも〜! 俺は加州清光って言って、隣町の私立高に通ってるんだよね。で、こっちののほほんとしてる大学生が三日月宗近って言います。名前と、俺らはその……えっと、む、昔してた習い事が一緒で! それで今でも交流がある……みたいな?」
(結構苦しい言い訳してるよ!! 清光しっかり!)

どうやら明確なビジョンを持たずしゃべりだしてしまったらしい。うん、気持ちはすごくわかる。

「習い事? 名前、隣町で習い事なんかしてたか〜?」

うっ……レオがツッコんできた……そうだよね、隣町に通うような習い事ならさすがに一回くらいは耳にしたことあるはずだもんね……。

ど、どどどうする? とあからさまに焦った顔でこっちを見てくる清光に助け舟を出そうとしたけれど、それは別の人物の声で遮られた。

「ああ――習い事と言っても、個人で楽しむ遊びでな。月謝なしで様々なる趣味を教える場のようなものだったのでなぁ。俺と加州は剣道、名前は……はて、何だったか?」
「――将棋、チェス、オセロ……いわゆるボードゲームだよ。忘れたの、三日月?」
「おお、そうだった。剣道を終えた後、よく皆で名前に挑んでは負けておったなぁ」

にこりと三日月が笑った。
さすが……年の功とはこのことか。するりと違和感なく話の筋を作って、私もうまく嘘に巻き込んで真実味を持たせてきた。

「ふぅん……今もたまに集まるってことは、そこそこ仲良しなんだね」
「そーそー。俺ら、不定期に集まってんだよねー。それが、今月はたまたま平日の今日になったっていうか? ね、名前」
「そうそう。で、清光と三日月はこの辺に詳しくないから……それで、せめて私の家に上がらせておきたいと思って。お願い、一瞬抜けるだけでいいから! すぐ戻ってくる!」

パン! と両手を合わせて『Knights』の皆にお願いする。なにせ、こんな全員が適当についた嘘など一時間ももたないのは予想の範囲内だ。とりあえず、彼らの拠点である私の家に戻らせなければ……!

「まぁ、夢ノ咲みたいな無駄に広い場所で待たせてもあれよねぇ。迷子になっちゃいそうだわぁ」
「確かにそうですね……女王陛下たるお姉さまのお客人とあっては、無碍にしては騎士の恥です」
「で、そこで不機嫌全開のセッちゃんと『王さま』はど〜すんの?」

凛月の気のない言葉に、三年生二人は閉ざしていた口を開いてこういった。

「おれたちも送ってやるよ」
「はい?」
「名前がそのままサボって蒸発しないよう、俺らが見張ってあげるって意味に決まってるでしょ〜?」
「え、えええ!? 戻ってくるに決まってるから!」
「まあ、そんなの分かってるけどさ」

レオが意地悪く笑った。

「おれの知らない、昔からの友達くんたちが何者か……見極める必要があるだろ〜?」
「あっはっは。これは、ずいぶんと困った兄君を持って居るのだなぁ、主」

三日月の台詞に、泉が眉をひそめた。

「……主ぃ?」
「「みっ、三日月!!」」

私と清光の悲鳴のアンサンブルを聞いて、三日月はようやく自分のミスに気付いたらしい。

「おお、相すまん。やってしまったなぁ、あっはっは」
「笑い事じゃないからね!? どうすんだよ三日月!」
「まぁ、なるようになる」

彼らしいのんびりとしたお言葉に脱力する。しょうがないな……と言おうとした私の肩に、がっしりとした手が置かれた。

「!?」
「お姉さま……主とは? どういうことでしょうか? 私たちのほかに、剣を従えていらっしゃると?」
「おお、おぬしらも刀剣か。これは気づかなかったぞ」
「絶対違うし! ヤバイって主、はやくこのおじいちゃん連れ帰らないと……ってああー!」
「おじいちゃん? こいつがおじいちゃんって、どういう意味? 朔間みたいにやけに老いた口ぶりだけどさぁ」
「うわー……マジでごめん、主」
「開き直ったーー!?」

額に手を置いて完全にやらかした……って顔の清光。いや、もうこうなった以上はしょうがないと思うけど! それにしても演技が十分も保てない私たち、さすがに酷すぎる。

「――で、どういうことか説明してくれるよな? 名前」

完全に説教モードのレオに、こくりと頷くしかなかった……。