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「俺はお前が好きだ」

世界中で百万回は使い古されたであろう台詞でも、どうしてこうも私の心臓を穿ってくるのか。

バクバクと音を立てる心臓を抑え、発言した相手の顔を見る。普段私がちょっとからかったら顔を真っ赤にして怒る、可愛い可愛い私の後輩は、全然みじんも動揺した様子はなく、まっすぐ私を見つめていた。

「て言ってもよぉ、どーせお前は『私も大好きだよ、こ〜ちゃん!』って笑って誤魔化そうとすんのが目に見えてっから、忠告しとく」
「こ、こ〜ちゃ……きゃっ!?」

ぐい、と手を引っ張られる。そのままぺしん、と優しく頭をたたかれ、反射のように「いたっ」と言葉がこぼれた。

「このクソ先輩、何回晃牙って呼べって言えばいいんだよ」
「クソって! ほ、ほんとに私のこと好きなの!?」
「あ? 好きに決まってんだろ。いいか、女として好きって言ってんだ、よく覚えてやがれ!」

にっ、と不敵に笑う晃牙くんに、何だかどきっとした。彼のことが異性として好きかどうかなんてまだ、分からないけれど……。



「名前、それこっちに貸せ」
「え? でもこ〜ちゃん、これ職員室まで運ばないと……」
「晃牙」
「うぐっ。晃牙、くん……」

私がそう訂正すると、晃牙くんはすっと目を細めて私の頭を軽く撫でた。わ、私が先輩なのに! 

「よし。で、職員室だったか? 椚先生に渡せばいいのかよ?」
「うん。持ってくれてありがとう」
「別に。好きな女にこれくらいはするだろ」
「すっ……!」

思わず声を上げてしまう。

――そう、そうなのだ。
告白してきてからというものの、晃牙くんは一切の照れを捨て去って、一直線な物言いで私に好意を示してくるようになっていた。

今までの晃牙くんじゃ考えられない、あまりにも素直で、直接的で、なんだか異常に動揺してしまう私がいて。

「はんっ、どーしたんだよ名前。俺様に惚れたか?」
「ほ、惚れてない!」
「どうだか。お前、ほんとこういうのに弱いからな」
「うっ……否定はしないけど……」

というか、何気に晃牙くんは私のことをよく分かっているというか。
一年前から、零さんの居ないときは何かと傍にいてくれていたからだろうか。私がこういった不意打ちや、急に甘やかされると極端に動揺して照れること、よく理解している。

その上でこうやって、私に優しくしてくれてるのかな。……わ、私を落とすために?

「晃牙くんのくせに、小賢しいじゃない……」
「言ってろよ。つーか、手伝いくらい普通だろ」

さらりと言っちゃう辺り、彼も人がいいというか。こういう所はその、ちょっと好き……なんて、思ったりして……。

「……っああもう! そういう目で見てくるんじゃねえって!」
「えっ!?」
「その熱っぽい目はどーにかなんねえのか!? その目で見られると、なんかその、むずむずすんだよ!」
「ええ!? だ、だって……晃牙くんが優しくしてくれるから、嬉しかったんだもん……」
「ああムカつく、何だよそれ。テメ〜、ほんとにそれで俺の事好きじゃねえのかよ」
「う……」

そんなことないよ。私、晃牙くんの事好きだし……って、なんか今、すごい誘導尋問された気が!? ま、まさか、晃牙くんに限ってそんなことしないだろうけど……。

……っていうか、もしかして、「好き」って言いたい自分がいるのかな。わかんないけれど……。

「こ〜ちゃんは、その……私が一人でいるときに、そっと守ってくれる人っていうか……ね? さ、察してほしいなぁ……」
「ああ? そういうのは言葉にしねえと駄目だろ」
「はーい……」

後輩に怒られる始末である。
確かに……告白の返事をいつまでも先延ばしにするのは、我ながらクズ過ぎる気が。

「え、と……こ〜ちゃん」
「晃牙って言えっつってんだろ」
「なんか、呼べなくなるはいやなの」
「なんでだよ」

怪訝そうな顔で晃牙くんが言った。

「晃牙くんが、二年生で唯一私を呼び捨てにするみたいにさ……私も、晃牙くんみたいに、一人であなたを『こ〜ちゃん』って呼んでたいの……だめ?」
「は……? ……はぁぁ?」
「な、何回も疑問の声をあげないでよ! ……って、こ〜ちゃん……」

顔、真っ赤だよ。
って思わず言うより前に、晃牙くんが私のことを片腕で抱きしめてきた。ばさ、と彼が持ってくれていた資料が私の背中に当たる。

「クソ……俺様は可愛いもんが嫌いなんだよ、馬鹿じゃねえの!? なに可愛いこと言ってくれてんだ」
「き、嫌いなら抱きしめないもん」
「だから、名前のせいで、今までのモンがひっくり返されたってことだろ〜が、この鈍感……」
「!」

わ、私のこと可愛いって思ってるの? なんかそれって、すごく……

「うれしい」

へにゃ、と思わず笑ってしまった。告白の返事とか重々しく考えてたけど、こうやって自然に笑えるのが……きっと答えなんだよね、こ〜ちゃん。