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「お風呂あがったよぉ。おチビ連れて早く入んなよ〜」

久しぶりに早上がりした仕事。妻の名前と、彼女との間にできた可愛い息子より先に風呂を譲ってもらった泉は、彼女たちに少し大きな声で風呂上りを伝えた。……が、どちらの返答もない。

「ちょっとぉ? 二人とも寝落ちてんじゃ……って!」

なぜか息子の姿はなく、代わりにリビングには名前だけがソファに座っていた。見覚えのあるセットが並んだテレビ番組に、泉は嫌そうな声をあげた。

「今ここに俺が居るんだから、こんなの見なくていいでしょ」
「えー。嫌だよ、だって今日はこの番組に泉が出る日でしょ? あの子には夕方にお風呂に入ってもらったし、何も心配することはないよ! ほらほら、泉も座って!」

高校生のころと何一つ変わらない、相変わらずの無邪気そうなセリフ。けれど大人になったからか、彼女は前にも増して優しく穏やかになった。泉のように自他に厳しい男を、なんでもないことのように愛してくれる。そう、つまりは泉の自慢の奥さんだ。

そう……自慢。

……自慢してしまったのだ、あの番組で! というか番宣のタイトルが既に『モデル出身、今話題の『Knights』のメンバー・瀬名泉のプライベートに迫る!』なので、名前にも察しがついたのだろう。

マズい、非常にまずい。絶対からかわれる予感しかしない。名前もだが、この番組を凛月辺りがチェックしていたら……想像するだけでも面倒だった。

「……俺これから見たいドラマあるんだけど」
「いつもテレビ見ないくせに〜」
「そりゃ仕事場で見かける連中を見るよりはさあ、家族の顔のほう見てたいでしょ」
「ふふ、さすがパパ三年生。家族サービスも板についてきた感じ?」
「俺は最初から家族サービスしてますけどぉ?」
「うん、知ってるよ。泉いっつも優しいもん……あ! はじまった!」

名前が泉の腕を引っ張って、ソファへの着席を促してくる。しょうがないので、彼は渋々席に座った。



『はい、じゃあ早速だけど、たぶん視聴者の皆さんもすげー気になってるとこ聞いていきたいと思いますよ』
『気になることですか?』
『そうそう。瀬名くんっつったらやっぱあれでしょ。デビュー当初から既に結婚してたというこの……なんつーの? 既婚アイドル?』
『言い方がやらしいなオイ! ごめんな瀬名くん、こいつイケメン見るとすぐ目の敵にするから』
『あはは。いえ、でもそうですね、やっぱりそこは色んな方に質問されます』
『『Knights』は学校時代のユニットをそのまま再結成したって話だよね。デビュー当初はだから、20歳だったか』
『そうですね。俺が三年生のとき、一年生だったかさくんを待ってたんで』
『あー朱桜くんな! だいぶあだ名独特だし、もしかして奥さんのこともあだ名で呼んでる?』
『いえ、普通に名前で……』
『呼び捨てね! いいね仲良しそうで! ……という訳で、はい、今回はなんと特別に、瀬名くんとそのご家族について、当番組が『Knights』の皆さんにアンケートって形で、独自調査をしてみました〜!』
『えぇ!?』

『まず奥さんは、リーダーの月永くんの幼馴染だったそうで! ……えっと瀬名くん、これはつまりリーダーの女を取ったということでよろしいですかね?』
『宜しくねえわ! 何とんでもねえこと言ってんだお前は!』

『奥さんの名前、名前ちゃんなんだね〜』
『ファンの間では有名らしいけどね(笑) 月永くんがしょっちゅう名前をうっかり喋るらしい』
『『王さま』には困ってるんですよね……まぁ、彼の人生の一部なのかもしれませんけど』
『奥さんがレオくんの人生の一部ってどないやねん』
『やっぱりリーダーの女を……』
『違いますから!(笑)』
『いやいや怪しい。という訳でTwitterで『瀬名泉 奥さん』と検索してみましょうか。S原警察ならぬ瀬名警察です』
『あっ俺調べますわww ええと何々? 『前世でどんな徳を積んだら月永レオの幼馴染かつ瀬名泉の奥さんになれるの?』だってさwwww』
『じゃあここで更に世の女性に徳を積ませるべく、奥さんのお写真を……俺たちだけ見ます(笑)』
『はいまずはA田くんから』
『やれやれ、こういうイケメンはね、意外と大したことない顔のちょっと待ってすごい美人だわこれ』
『清楚系やな〜! 赤ちゃんめっちゃかわええやん!』
『つか瀬名くんの笑顔が違うwww』
『ほんとだわww ちょっと瀬名くん、カメラにこの笑顔向けてよ。ついでに奥さんの名前呼んで』
『えっ、マジですか(笑)』

『……名前』

『お客さんめっちゃキャーキャー言ってますやん!』
『てか他の女の名前呼んどるのにええの!?(笑)』
『俺の手元に来てるカードによるとね、『Knights』ファンの間ではひそかに女王と呼ばれているとのことですけど……?』
『女王!?』
『女王ちゃんか(笑)』
『というか、高校時代にあいつそういうあだ名付けられてましたね』
『えっ!? この優しそうな子が!? 女王様!?』
『SMプレイ……』
『やかましいわ!』
『あはは。そうですね、あいつには似合わないあだ名でしたよ。でも、俺はあいつが居てくれたから、今日までずっと『Knights』で居られたんだと思います。仕える先って意味では、女王なのかなって。もちろんこれからは、子供と一緒に守っていきたいなって思ってます』
『あっついわ……』
『おーい空調の温度下げて〜??』



「えへへ、泉ったら……だから見せたがらなかったんだ〜?」
「はいそこ、うるさいよ〜?」

案の定、テレビ番組を全て見終わった名前はニヤニヤとこちらを見つめている。テレビ番組の共演者たちが彼女の見た目を褒めていたのを思い出し、なんとなく彼女の顔をじっと見つめる。

確かに、高校生の時以上に輝かしいものに見えるが、それは見た目の問題というよりは、自分の心持ちの問題のような……なんて思って、また恥ずかしくなる。テレビの仕事ではあんな恥ずかしいことを平気で言えたのに。いや、仕事だからこそ言えたのかもしれないが。

「うるさい? あはは、あの子が起きたら大変だもんね」
「そうそう、あのおチビ、もし起きてあんたが居なかったらぎゃん泣きするじゃん」
「私が居る時はね、パパは? って聞いてくるよ」
「へぇ、そうなんだ……」
「ふふ、嬉しそう」
「そっちこそ、顔がにやけっぱなしだけどぉ?」

名前のふにゃりと笑った顔が好きだから、そのままで良いのだけれど、つい性分で照れ隠しするように言った。

「だって、泉と一緒に居れる時間だよ? 仕方ないよね、――パパ?」
「はいはい、そうだねぇ。じゃあ、おチビが起きないうちに寝よっかね」
「はーい」

きっと、これからも、この笑顔を守るために生きるのだ。