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「……ちょっとぉ、鍵もかけずに寝るとか正気じゃないよねぇ?」

すやすやと、他人の寝床で寝息を立てる少女のほかに、このスタジオに人はなかった。――今入ってきた泉を除いて。

いくらここが『Knights』の領地に等しい場所とはいえ、誰がいつ這入ってくるかも分からない。ここはあくまで学校であり、この棟はほぼ男のみで構成されるアイドル科だ。

盛大なため息をついて、泉は扉を閉めた。そのまま彼女の傍まで近寄って、寝床の前に跪く。起こすかどうかと思いながら彼女を見下ろすと、泉はまたため息をついた。

「ボタン外してるし……」

眠るのに少々窮屈だったのか、カッターシャツのボタンが上から二個ほど外れていた。無防備な胸元からちらりと下着が見えてしまっていて、もはや泉は照れより先に怒りの方が勝ってきた。

こんなに無防備な格好をして、他の男に見られたらどうするつもりなのか。見るだけならまだ良心的な方で、手を出してくるものが居ないとも限らない。

「……ったく、ちょっと痛い目見てもらうからねぇ?」

眠る名前に囁いて、泉は愛しい恋人の額にキスを落とした。上履きを脱いで、凛月の寝床へ自身も上がる。泉の長い指がしゅるりとネクタイを外し、眠る名前の目元をそっと覆った。頭を少し動かしたというのに、まだ眠っている。スタジオだからといって安心しすぎだ、と思いながらネクタイを緩く結んだ。

そして、何をされているかも分かっていない、すやすやと規則正しい呼吸を零す唇をふにと親指で押した。まだ起きない。できれば起きなくていい、と思いながら、泉は唇から指を外し、代わりに自身の唇を重ねる。

まったく抵抗はない。いつもは一瞬びくりと肩を跳ねさせるのに、今はすんなりと泉の舌の侵入を許していた。すやすやと気持ちよさそうにしていた名前が、急に息苦しそうに小さく呻き声を上げ始める。ようやくお目覚めとは、少々遅すぎるくらいだが。

「ん、くっ……ふ、は…!? ん、んんーっ!?」

目を覚ましたはずなのに真っ暗な視界に驚いたのか、名前は泉の咥内に吐息を零す。ここでとっさに舌を噛むなんて芸当が出来れば泉も多少は安心なのだが、まず自分の手で相手の顔を探す、なんてズレた行動をとっている時点で気苦労は絶えない。ぺち、と頬に力なく添えられた名前の手のひらに、もうやめてやろうと泉は唇を離した。その手のひらを握ると、また名前はびっくりした声をあげた。

「ひゃ!? だ、誰……? だれなの、い、いずみっ……」
「え〜? なに、よくわかったねぇ?」
「え、あ、泉なのっ!? よ、よかったぁ……」

目隠しされたままで、何がよかっただ。安心したようにふにゃりと笑った名前に、びしっとデコピンを一つ。

「いたぁ!?」
「なーにが良かったなの、あんた鍵も閉めずに寝ちゃってさあ……? 俺じゃない誰かだったら、どうするつもりぃ?」
「あっ……ご、ごめんなさい……わすれてた……」

正直に自己申告してくるあたりも彼女らしい。忘れてたとは。

「えへ、でも泉でよかったぁ。怖かったよ、いきなり息苦しくなるし、起きたはずなのに真っ暗だし……」
「その楽天的なとこが治らない限り、またコレやるからね? いい加減、自己防衛を覚えなよぉ〜?」
「はぁい。……ねえ泉、」
「はいはい、ネクタイも今とってあげるから」
「ううん、違うの。……怖かったから、抱きしめてほしいなぁ……なんて」

……こういうことを平気で強請ってくるのが、すごく泉の心臓に悪い。名前が目隠ししていてよかった、と思いながら咳ばらいを一つ。顔が熱くてしょうがない。

「ったく、どうしようもない甘えん坊だよねぇ、あんたは……?」

どさりと、二人一緒に寝床に倒れ込む。下敷きになっている名前は、無邪気にきゃっきゃと笑い声をあげていた。

「あはは、泉ったら重たいよ〜!」
「重たくないし? ったく、モデルに重たいとか良い度胸だよねぇ?」
「く、くすぐったいから、あんまり耳元で喋んないで……」

彼女の身体が、いつものように少し固まる。そういう雰囲気というやつが、段々と二人の周りに生まれてきた。泉が低い声で笑うと、名前はまたくすぐったそうに身をよじる。

「へぇ、どうくすぐったいのか、俺に教え……」

ガチャッ。
と、泉の背後で音がした。

すごく、ものすごく嫌な予感がしながら、泉が後ろを振り返ると……

「――もしもしポリスメン?」
「てっ、転校生!? ちょ、ちょっと! 何そのスマホは、通話切ってくんない!?」
「分かりました、従います。その代わり、写真撮らせてください」
「は!? なんで!?」
「S名女王スレに投下するに決まってますよ常識的に考えて。さぁ先輩、十秒で決断してください」

突然現れた後輩が、突然松岡修造の特訓レベルに厳しい時間制限の交渉を設けてくる。それだけならまだよかったのだ、問題は……

「わぁ、セッちゃんそれは犯罪だよねぇ〜、ぷぷ……」
「せせせ瀬名先輩!? なんということをっ……!」

微妙に最悪のタイミングで、転校生の後に続いてスタジオに入ってきた凛月と司だ。片方は天然で怒りを爆発させそうで、片方は状況を飲めてなおからかうつもりという、質の悪いスタンス。

「10、9、8、……」
「はぁ!? なんなのもう、チョ〜うざぁい!」

――泉が決断を下すまで、あと五秒。