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幼稚園のころ、親が迎えに来るのを一緒に遊びながら待っていたレオと名前。その日はレオの母が迎えにこれず、名前の母が二人を連れて帰る算段になっていた。

レオの母がちょうど迎えに来た時、まだ園内には数人園児が残っていた。女子の方が多かった気がする。彼女たちはめいめい絵本を読んだりおままごとをしたりとばらばらの行動をとっていて、男の子のレオと遊んでいるのは名前だけだった。

もちろん、それはその日になって始まったことではないが。

「名前ちゃ〜ん、レオく〜ん」

砂場で二人、城のようなものを作って遊んでいるところに、幼稚園の先生が二人を呼びに来た。レオはパッと顔をあげたが、名前はふんふんと砂を弄るのをやめない。

「なまえ、先生がよんでるぞ」
「えー! まだレオくんとあそぶー!」
「名前ちゃん、ママがもうお迎えにきてるよ」

やだやだ、と駄々をこねる名前。女の先生は困ったように微笑んで名前を抱っこしようとするが、嫌がってふるふると首を振る。

そんな名前の様子を見て、先に立ち上がっていたレオは名前の傍にもう一度しゃがんだ。

「かえってからもあそべるだろ? ほら、手つなごう?」
「……」
「なまえ〜?」
「……うん」

名前はレオの手をとって、すんなりと立ち上がった。そのままぴっとりとレオの腕を抱きしめて先生を見上げている。家が隣で、同い年の幼馴染と聞いていたが……どうにも勝手が違って、先生は思わず名前に語り掛けた。

「名前ちゃんは、本当にレオくんが大好きね〜?」
「……せんせいも、だいすきだよ」
「わぁ、嬉しいなぁ。……ってあら、名前ちゃんのお母さん! すみません、ここまで来ていただいて!」

先生が振り返った。そこに居たのは、名前の母だ。「おかあさん!」と名前が一瞬うれしそうな顔で母を呼んだが、あくまでレオの腕は離さない。

「あら。名前、またレオくんに引っ付いてたの? も〜、ごめんねレオくん。この引っ付き虫ちゃんのお世話は大変でしょ?」
「いいよ! なまえはおれが守ってあげる! おれはルカたんのおにいちゃんだし!」

レオははきはきと返答していく。確かに、そこにはお兄ちゃんらしい風格が存在している。

「そうかしら? ありがとレオくん。ほんと、ほかの女の子は最近『なんとかくんのお嫁さんになる〜』みたいに、段々ませてしっかりしてくれるのにね。というか、レオくんのお嫁さん希望者って多くないですか、先生?」
「あはは、確かにレオくんはモテモテですよねぇ。顔も綺麗だし、5月生まれさんだから結構しっかりしてるし」
「ですよねぇ。名前、ただでさえレオくんに引っ付きっぱなしだし、他の女の子に疎まれないか、ちょっと心配で……」

先生と名前の母が会話をする。名前は、いまいち話の内容に興味がないのか、その辺を飛んでいた蝶々に視線をやっていた。先生はそんな名前を見て、ふいに名前の前にしゃがんだ。

「名前ちゃん?」
「! なぁに?」
「名前ちゃんは、レオくんのお嫁さんになりたいの?」
「およめさん?」
「そうよ名前。でも名前がなれるかしら? レオくんは人気者だからね〜? それに、いつまでも引っ付き虫してると、レオくんがもしお嫁さんをもらったとき、大変だわ」

名前は「およめさん、およめさん……?」と言葉を反芻していたが、母の言葉にも少し反応を示した。

「なにがたいへんなの?」
「え? お嫁さんは、レオくんと名前がくっ付いてると、悲しいのよ」
「なんでかなしいの? なまえ、およめさんって何かしってるよ! レオくんのおよめさんってことは、……レオくんがおにいちゃんだから、おねえちゃんだよね! おねえちゃんは、レオくんみたいになまえとあそんでくれるよ! きっと!」
「いや、全然わかってないわね……」
「? あ、なまえもおねえちゃんとあそぶから、おねえちゃんかなしくないよ!」
「何もわかってない! 先生〜、お願いです、この子もうちょっとマセガキにしてやってくださいよ」
「あはは、マセガキってお母さん、すごい事仰りますね」
「せめてお嫁さんの意味は知っててほしかったです……ダメだこの子、早く何とかしないと……」
「まぁまぁ、お子さんの成長速度はそれぞれですから。それこそ、レオくんが居るから、きっとレオくんが引っ張ってくれますよ」
「そうだと良いんですけど」

先生は母との会話をいったん絶ち、名前とレオに一つの袋を差し出した。そこには飴玉がたくさん入っている。

「はい、レオくん、名前ちゃん。今日はお母さんを長く待てたので、ご褒美にあめちゃんをあげます! イチゴとミカンとバナナ、どれがいい?」
「えと……」

名前はもじもじとして何も言わない。レオはそれを見て、一言。

「おれはイチゴがいい!」
「イチゴね。はい、どうぞ! 名前ちゃんは決まったかしら?」
「レオくんとおんなじの……」

また名前はレオくんレオくんって〜、と母が情けなさそうに呟いていたが、彼女には聞こえていないらしい。先生から見ればずいぶんといじらしくて可愛いと思うのだが、母目線になると心配になるのだろう。

「レオくんとおんなじのね。はい、どうぞ」
「ありがとう、せんせい」

にっこり。微笑む姿は、かなり園児の中でも品の良い感じだ。心配するほどの粗相な子ではないと思う。

「あっ、名前ちゃんのお母さん! すみませーん、名前ちゃんの体操服がこっちに!」

穏やかな男の人の声。園長先生だ。教室の方から叫んでいる。名前の母は彼の声に応じて、「そこで待っててね!」と一言残して小走りでそちらへ向かってしまった。

一応先生も待っておこうと思い、立ち上がってお母さんの方を向く。すると、子どもたちがもぞもぞとしゃべっている声が聞こえる。

「なまえ、およめさんっていうのは、おねえちゃんじゃないぞ」
「そうなの? レオくんがおにいちゃんだから、およめさんもおねえちゃんじゃないの?」
「うん、ちがうよ。およめさんは、いちばんすきなひとのこと!」

なるほど、レオはしっかり認識していたらしい。こうして傍に居るレオが色々と名前に教えているので、お母さんの心配はやはり杞憂で……

「だからなまえは、おれのおよめさんになるんだよ」

……ちょっとしっかりし過ぎと思う先生であった。