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▼ デザイナーAの考察

――なるほど、彼女が瀬名さんの好きな子か。

と内心一人で納得しながら、伸縮性はどの程度がいいかとか、値段はどれくらいになるかとか、事務的なことを淀みなく聞いてくる少女を眺める。

瀬名さんとはモデル時代からの付き合いで、彼にはいろいろお世話になった。だから、彼女の頼みを断るなんて万に一つもないので、そんなに真面目に取引してもらう必要もない。必要な条件を箇条書きに書いて、メール送信。それだけで十分なのだが。

なんというか……意外すぎて、ついつい話を引き延ばして彼女を観察してしまうのだ。

「それで、周囲がフラワーガーデンですから、ビビッド系の色は控えて頂けると嬉しいんです。本職の方に言う必要なんてないでしょうが……」
「……あ、いえ。現場がどういう場所か……っていうのを伝えてくれるお客さんはありがたいっす」
「そうですか! よかった、お節介かと思いました」

ほっ、と安心したように息を吐く少女。

極めてオシャレで、美しい……という感じの子じゃない。瀬名さんが好きになるんだから、いったいどんな高圧的な美女が来るのかと心臓バクバクだった身としては、肩透かしにも似た安心感を得た。

そもそも瀬名さん自体が、あの業界ではピリピリしていたというのもあるが。デザイナーの自分には分からない世界なのかもしれないが、モデルというのは想像以上に競争率の激しい、過酷な場所なのかもしれない。

だからこそ、彼が選ぶ女性は、もっとこう……気性の強そうな感じを想像してたんだけど。

「……優しそうな子だね」
「?」

決して可愛くない訳じゃないけど、せいぜいクラスで三、四番目って感じ。おとなしそうだから、絶対に前には出てこないだろうし。そうなるとクラスの可愛い子判定のカーストから埋もれちゃうよね。

気性が強い、という感じでもない。むしろ相手に合わせて自分を変えるタイプな気がする。あまり我を通す顔でもない。

「ねぇ、瀬名さんと仲良しなの?」
「あ……はい。仲良くしてもらってます」
「瀬名さん、どう思う?」
「どう……?」
「かっこいいとか、綺麗とかさ。って、これモデルだから当たり前か」

自分の誉めるポイントが、基本的に視覚的なモノに頼りがちなの、職業病かな? なんて思っていると、彼女はこちらを見て柔らかく微笑んだ。その表情は優しくて、少しどきりとした。

「ふふ。そうですね、いず……瀬名さんは綺麗な方ですもんね。まずそこを褒めたくなる気持ち、わかります」

へぇ、普段は泉って呼んでるんだ。
彼がそこまで踏み込ませるの、モデル仲間のごく一部――例えば鳴上さんとかだけと思ってた。

「いやぁ、やっぱ最初は瀬名さんの見た目褒めとかないと」
「あはは。でも、私は……瀬名さんの綺麗なところも、全部彼の努力家なところから生まれてると思ってます。だから、どう思うかと言われたら――努力家でがんばり屋さんで、良い人って感じですかね……」
「――がんばり屋さん?」

予想外の評価だ。
瀬名泉という人間を評すのに、内面を評してくるか。

彼女にとって、彼はモデルではないのだろうか? というか、ぱっと見でわかる外面より先に内面を褒める言葉が出てくるなんて、よっぽど深いかかわりじゃないと出てこない。

本当に、瀬名さんをよく見ているんだなあ……と純粋に感心した。

「や、突然変な質問してすんません。実は、瀬名さんがあなたのことよく喋ってたんすよ」
「瀬名さんが? 私なんかが、何の話題になったんでしょうね?」

くすくすと笑う感じも、全然嫌味なところがない。いい人、っていうのはあなたのことだろ、なんて思った。確かに瀬名さんは良い人かもしれないが、彼の態度や口調が、彼をそういうふうに規定してくれないから。

だから、良い人って面を感じるこの子は、よっぽど彼にとって特別なのだろう。

「学校の話とか。あとアイドル業の話とかっすかね。瀬名さん、ほんとにあなたが大好きみたいで」
「ほんとですか……それは光栄です、彼にも帰ったら聞いてみようかな」
「聞く? 何をっすか?」
「『私のこと大好きってほんと?』って!」

わぁ、自分が瀬名さんに怒られる未来しか見えない。

「わわわ、やめてくださいって! 自分がすげー怒られるんで!」
「ふふ、ツンデレですもんね、瀬名さんは」
「つ、ツンデレ……瀬名さんをそんな風に言えるなんて、ほんとこの子強いな……」
「?」
「あ、いえ、なんでも」

彼女の瀬名さんに対する打ち解け具合から、瀬名泉という人間の扱い慣れ具合も、彼の翻弄されっぷりも、すぐ想像ができた。

……ほんと、よほど瀬名さんは、日渡さんが好きなんだろうな。

「うっし。じゃあすぐ作業に取り掛かりますんで。今度また、三毛縞さんと来てください」
「はい、ありがとうございます」
「日渡さん、今度は瀬名さんも連れて遊びにきてくださいよ。歓迎しますんで。自分にも瀬名さんのツンデレ具合、披露してほしいっすね」

俺がおどけてそう言うと、彼女は可笑しそうに微笑んだ。

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