×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

A hell of a girl

「大好き」

だったのに、またダメになっちゃったみたい。
北斗くんに「さよなら、楽しかったよ」とだけ打って送信。あーあ、まただ。これで四回目。私、ほんとに男運がないのだろうか?

一度目は英智。
大好きだったのに、あっさりレオを裏切ったから別れた。しょうがないよね、だって私がアイドル科に居るのはレオが理由だったんだもん。

二度目は零さん。
大好きだったのに、他の女の子も甘やかすから別れた。しょうがないよね、甘言垂れ流しで気分がよくなるけど、誰にでもだったら必要ないもん。

三度目は泉。
大好きだったのに、私と同じくらい大事にする後輩がいるから別れた。しょうがないよね、だって一番になりたいから恋人になるんだもん。

四度目は北斗くん。
大好きだったのに、革命が終わった途端に疎遠になったから、いま、別れた。しょうがないよね、だって『Knights』の皆が『Trickstar』のレッスンに行かせてくれないんだもん。

私、ほんとは恋愛なんか向いてないんじゃないかな? そもそも恋人になったからって、何か変わった気持ちになる訳でもないし。全部告白されたから頷いただけで、私、何もしてない気がする。うーん、『恋人』になるのって難しい。

「やっぱり、私がアイドル科のみんなと恋愛とか分不相応だよね」
「んー? なんだ、また別れたのか?」
「うん。さっきお別れを言ったところ」
「やめとけって言っただろ、おまえもおれと一緒で社会不適合者なんだからさー!」

わははは、と盛大に笑うレオに首を傾げる。社会不適合者? いや、私はどこからどう見ても社会の歯車になりそうな一般大衆だと思うんだけどな。

私が不思議そうに思ってるのが伝わったのか、レオがペンを走らせる手を止めてこちらに振り向いた。

「そうだよ。おまえもぶっ壊れちゃったんだ」
「……も?」
「うん。おれと一緒に、チェックメイトの時にぶっ壊れた。おれには分かるよ、名前」

レオがとん、と私の肩を押した。あっけなく体はベッドの上に倒れこむ。彼が馬乗りになってくるから少々苦しいけど、『そんなこと』より、続きが気になる。

「どう壊れたの?」
「ん? あー、博愛主義が変な方向に行ってるっていうかさ? おまえ、人が良すぎるんだよ。良すぎて、全部受け入れる器になっちゃった」
「器……」
「誘い込まれた男を受け入れるままの、器だ。ただし、どれだけ愛を注いでも無駄だよなぁ。だってお前、底がないもん。注いでも流されるだけで、おまえは全く本気になってくれない」
「そんなことないよ。……たぶん」

ムッとした。いくらレオでも、それはいけない。

「そんなことある。なんていうか、名前はこんなことになるはずじゃなかったけど、そうなっちゃったんだな。バグか? それともおまえ宇宙人か? わははは、インスピレーションが湧いてきた!」
「バグって、ゲームじゃあるまいしさ……ん、んっ、くすぐったい」

レオがいきなり私のシャツを脱がせて、そこにペンを走らせる。すぐそこに紙があるよって教えてあげたのに、レオは夢中で私の肌にペンを走らせる。

「面白いな、おまえは! 確かに女王で、慈愛ある君主のはずなのに、愛情を注がれても無反応なんだから! 与える愛はあっても受け取る愛はないって感じだな! 一方的に寵愛して、そいつの紡ぐ物語に興味なくなったら容赦なく破り捨てるんだ」
「誰でも一冊は人生って本を書けるんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあ、読み終わったら次の本を読みたいよ」

当然の帰結じゃないの?
私はみんなのことちゃんと大好きだったし、何にも悪いことしてないもの。浮気もしてない。遊んでもない。ちゃんと『その時』好きだった人としかエッチもしてないし。清廉潔白、というか自分でも引くくらい、他の恋愛対象ってものを見てないと思うんだけどなぁ……。

「やっぱり、壊れてるよ」

レオは嬉しそうにそう言った。仲間を見つけて喜ぶ、旅人のような不安定さで。

「でも、壊れたおまえに壊された連中は、きっと黙ってないかもな」
「誰のこと?」
「教えてあげない! 大丈夫、壊れたおまえには、壊れたおれがついてるからな!」
「……レオ、どうしてペンを置くの?」

肌に滑っていたものは、ペン先からレオの掌へ。あれ、と思ったときにはもう遅い。

「――おれが責任もって、調教しなおしてあげる」

壊れる前のおまえにさ。
そう言ってレオは、私のブラのホックを外した。



なるほど、送り返す先があったか。
と状況を整理する。どうやらレオは、泉の為に私を調教しなおして、ちゃんとした『普通の恋人』に戻してやろうとしたらしい。

無理やり押さえつけられて、一方的に揺さぶられながらそう思う。レオはとうにいなくなって、代わりに泉とセックスして――あれ? なんで私、泉としなきゃいけないの?

「だめだよ、泉」
「何が」
「お別れしたんだから、私とセックスなんてしちゃダメ」
「はぁ? チョ〜うざい……勝手に別れたつもりになったのはそっちでしょぉ!? 俺、納得したなんて言ってないしさぁ!?」
「んあ、ひっ!?」

怒りに任せたような声とともに、泉が私を背後から思いっきり押さえつけた。ひどい、なんでこんなことするの。そう言って抗議しようと思ったけれど、すぐそばに泉の顔がやってきて、キスで文句がふさがれる。……少ししょっぱい。うっすらと目を開くと、泉は泣いていた。

「ん、っ、いず、み……?」
「ホントあり得ない。信じられない。ふざけんなよ……」
「……?」
「あんな理由で別れるなんてさぁ、俺に興味ないって言ってるようなもんだよ。自分だって『王さま』が居たくせに、一番じゃないからって、それどういう意味。俺は一番だった、一番にしてくれないのはアンタの方なんだよ、畜生ッ……」
「あ、え、なんで、わたし、」

レオを妬むような発言に驚いた。
どうしよう。私のせいでレオと泉の友情を壊したりしてないだろうか? 『Knights』が不仲になるのは良くない、

「ああもう、余計な事考えるなって言ってんだよ!」
「っ!?」
「くそ、全然俺のこと考えないしさぁ? ていうか、今まで恋人のことまともに考えたことある? ないよね?」
「え……? 恋人のこと、を?」

考えたこと……?
ない。
お仕事の時は別として、何を考えればいいのだろう。ああ、泉の求めるものを返せてなかったから、今こうやってレイプされてるってことだろうか。

なんて思考回路を回すこと自体、泉にはたまらなく腹立たしいことだったようで。思いっきり奥の方を突かれ、噎せる。気持ちいいのか、息苦しいのか。

「ああもう、ウザい! 良いからさぁ、このままぶっ壊れるまで抱いてあげる。もう余計なこと考えないように作り直す。ほら、もうどこにも行かないって言えよ。あの二年坊主の所にはいきませんって、反省してくれない? いや、して。俺を苦しませたこと、後悔させてあげる」

綺麗なアイスブルーが淀んでいるのは、彼の心も壊れたからか、あるいは滲む涙のせいだろうか。

「あんたが悪いんだよ」

ただの被害者だと思ってたのに、間違えてたのかな。
ここまでされても理解できない自分は、まさしく壊れているのかもしれない。たぶん初めから。英智と付き合ったときからだ。嗚呼、でも優しい泉ですらこんなに怒ってるなら、きっと英智や零さんは――

なんて思っていたところに、着信が。滑る視界でも、その光はやけに鮮明に映った。

『名前、話がしたいのだけど、今どこかな』
『なまえや おいで』
『月永くんに言われたのだけど、やっと浮気性が直りそうなんだってね。確かめてもいいのだよね?』
『やっとおぬしに しおきができるらしいのう』

『覚悟してほしいね、僕の可愛い名前』
『死ぬ気で耐えろよ、俺専用の御用聞きさん?』

――もしかして、私が加害者だったりするのだろうか。