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お化けのままで居ればよかった


「名前や……」
「……」
「ほれ、美味しいお菓子をやろうぞ〜?」
「…………いらない」
「頼む、機嫌を直してはくれんかのう……?」

まさに吸血鬼さながらの威風堂々たる衣装を纏う朔間零が、様々なお菓子を片手に半泣き状態、というのはいささか面白すぎる光景だった。

さて、そんな吸血鬼を半泣きにさせているのは、天敵の神父でも退魔師でもなく、一人の少女――もとい、彼の愛し子だった。

「大体トリックオアトリートとも言ってないし、お菓子なんかいらない」
「うぐっ……名前よ、もうむくれるのはやめておくれ」
「むくれてないけど? ふーんだ、零さんのバカ、変態」
「ね、寝ぼけておっただけなのじゃ……本当に悪かったと思って居るのじゃが……?」
「やだ。零さんの浮気者」

普段のおおらかな態度とは違って、取り付く島もない様子の名前。

時は一時間ほど前に遡る。寝起きの零が、食事と勘違いして転校生に迫った……という旨の状況が、誰かさんのかなり盛った伝達により、名前が怒ったらしい。

彼女が怒るのはかなり珍しく、しかも嫉妬している――という状況だけ見ると、内心零は嬉しく思っていたりするのだが、それを言ったら一週間くらい口をきいて貰えなさそうなので、墓場まで持っていくことにしようと思う。

それより今は、彼女の機嫌を直すことが先決なのだ。

「そ、そういえば名前よ、衣装を変えたのかえ?」
「……うん」
「さっきのお化けさんの格好、おぬし気に入っておったのではなかったか」

お化けさんの格好、といっても、あんず直筆の可愛い顔が書いてある布だが。零は零で「顔すら出てないじゃね〜か……」と別の意味でショックだったのだが、可愛いでしょ? とニコニコ笑う(声で判断した)名前は可愛いので何も言わなかったが。

「だって、レオたちが『それはない』って言うから……」
「ふむ。で、その可愛い姫騎士の格好という訳か」
「姫騎士っていうか……」
「おお、ジャンヌダルクか。おぬしのよく遊んでいるゲームの」

『Knights』がすすめたと予測したので、最初は騎士の格好かと思ったが、日ごろの記憶を掘り返すと、よく名前のスマホの画面に出ていたキャラクターの衣装とところどころ一致している。

趣味を言い当てられると嬉しいのか、名前が怒っていたことを忘れたようににへらっと笑った。

「う、うん! でも、コスプレみたいで恥ずかしいな……」
「なに、よく似合っておる。布地が紫であるからして、我輩的にも嬉しいぞい」
「あ……そっか、『UNDEAD』のイメージカラーだ」

名前は自分の胸元付近を見て、嬉しそうにまた顔をほころばせた。布地が使われているのはそこと腰回りの布くらいで、下は甲冑なのだろう。と零が何気なく視線を下ろす、と。

「なっ!?」
「わっ、何、零さん!?」
「おぬし、なんじゃこの下は!」
「うきゃっ!?」

思いっきり零に肩を掴まれ、目を白黒させる名前。しかし零はそれを気に留めることなく、先ほどまでの半泣きの顔はどこへやら、今度は威圧感のある怒った顔に様変わりしていた。

「えっ、え? なに、どうしたの零さん……」
「どうしたか……じゃと? おぬし、このように短いスカート……というかスカートでもないのう、こんな布地」

飄々とした口調でつぶやくと、零の長い指が名前の太もも付近を覆った布地に触れた。びく、と名前の肩が揺れる。

「ひゃっ、め、めくらないで、やめて」
「やめて欲しかろう? なら、この衣装も駄目じゃ。名前の脚を、他の男の前で晒すというのはちと納得がいかぬ」
「っ、でも……お化けだめって言われたのに……」

今度は零が嫉妬に塗れる側になったらしい。怒りを隠そうともしない目に貫かれ、名前は顔を赤くしたり青くしたりせわしない。一方の零は、名前の煮え切らない態度にやきもきしているようだった。なまじ『Knights』が用意した服であるがゆえに、脱ぎたがらないそぶりは良くなかった。――なんて、名前が気づくはずもないが。

「我輩が嫌だから却下じゃな」
「わがまま!」
「さっきわがままじゃったのは、おぬしじゃろうて。ふむ……」
「おわぁっ!?」

零がいきなり名前を抱え上げ、あっさりと机の上にその体を置いた。そのまま脚を掴まれ、名前は本格的に身の危機を察知する。

「あ、あのー……零さん?」
「うむ、なんじゃ」
「どうして、脚を掴んで……わわっ、やだ何するの!?」
「この服が着れぬようにする、冴えたやり方じゃよ……♪」
「ひゃっ!」

布地がめくれるかめくれないかの所まで脚を持ち上げられると、太ももの際どいラインに零の唇が寄せられた。僅かな痛みに、名前は何をされたかすぐに理解が追いついた。――顔が赤くなるのもほぼ同時だったが。

「零さん、だめ、」
「んん……まさかこれだけで終わると思うてはおるまいの?」
「は……、え、まさか、嘘でしょ」
「そのまさかじゃよ……♪ なに、替えの衣装……我輩のユニット衣装とかでよかろうて」

適当なことを言う零だったが、その押さえつける力だけは全くデタラメじゃなかった。

「今宵は、我輩も吸血鬼然と振舞おうぞ……♪」

まるで乙女の生き血を欲しがるソレのように、名前の喉元まで迫る唇。観念したように、名前はきゅっと目を閉じた。