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五奇人といっしょ

「宗の採寸を受けるのも久しぶりだね」
「ふん、そう易々と僕に服を作ってもらえると思わないことだね!」
「あれれ〜? この前師匠、名前ねえさんの昔の採寸データを使ってドレス作ってなかったかナ〜」
「逆先!」

作業の手があからさまに止まって、動揺している宗。いや、別に私のサイズを例に作っても怒ったりしないからいいのに。

「まぁまぁ宗、早くしないと。ライブまで猶予がないんでしょ?」
「う、うむ。そうなのだよ……というか名前、君は余計な肉をつけすぎだ」
「ええっ!? 太った!?」
「一年生の時から数段はついているのだよ、胸に! これではサラシを巻き辛くてかなわないね」
「宗にいさん、その話詳しく」
「しなくていいからっ!」
「エ〜? 健全な青少年の興味を奪わないでよネ」

机の上に座って、足をぶらぶらさせながら文句を言う夏目くん。今日は私と宗が採寸作業をすると聞いて、放課後にふらっとやってきたのだ。

「まったく、小僧は不純な目で僕の創作物を見すぎなのだよ! そんな即物的なところばかり見るのではなく、美少年のディティールを考慮したこの首回りや胴のラインをだね」
「うきゃ!? 宗、急に首を触ったらびっくりするでしょ!」
「採寸中はごそごそするんじゃない、全く」
「怒られた……」

解せぬ。
とりあえず男装するのに必要なコルセット等を全部装着した状態で宗の前に立ってるので、衣装製作の邪魔をしてはいけないのだろうけど。

とりあえず夏目くん同様、借りてきた猫のように大人しくするか……と思っていたところ、背後から突然がらりと扉が開く音が。

「お〜い、邪魔するぞい斎宮くん」
「おじゃまします〜♪」
「なぜここに集合してるんだね君たちは。あと、さっきからそこの扉の前で待機している阿呆も早く出てきたまえ」
「Amazing! 今か今かとツッコミを待っていたのですが、正直このまま放置されるかと思っていましたよ……☆ きちんと拾ってもらえて嬉しいですねぇ!」
「おわぁ〜、薔薇が大量発生してるし。宗に怒られるよ、渉?」

ひらひらと頭上から薔薇の花びらが、というか時には薔薇の花そのものがボトボト落ちてくる。案の定宗と私の間にも大量に落ちてきて、宗がぽこぽこと怒り始めた。

「何をするのだね渉!!」
「あっはっは、薔薇に飾られて美しいですねぇ、さすが美少年と人形師!」
「この粗忽者、待ちたまえ! 今日という今日は説教を」

駄目だこれ、完全に宗は渉の方に向かって歩いていってしまった。こんな薄着で放置される身になってほしい。

「なまえ、寒くないですか〜?」
「わっ!」
「さむいときは、『おしくらまんじゅう』がいいって、ちあきもいってました〜♪ ぎゅうぎゅう……☆」
「あはは、奏汰ったら」

奏汰が心配してくれたのか、暖をとらせるように後ろから抱き着いてきた。奏汰は結構身長が大きいので、すっぽり包まれるような様相に。でも可愛いので、そのまま抱きしめてくれている腕をよしよしと撫でていると、夏目くんがつかつかと歩み寄ってきた。

「ねえさん、寒いの?」
「え? うん、まぁ」
「じゃあ、ボクもあっためてあげるネ♪」
「おわっ」

ぽふん、と夏目くんも抱き着いてきた。可愛い……と思わず頬が緩みかけたけど、

「……C以上は確定といったところかナ?」
「こら! どこ見てるの!」
「学術的な興味には抗えなかったヨ……」
「しょ、しょんぼりされると許したくなるっ……!」

第一そこまでスキンシップを好まない夏目くんに抱き着かれたとあっては、既に私の心は夏目くんを許す方向に舵を切っちゃうわけで。狡いよ!

「おお……ダメじゃよ名前、嫁入り前の女の子がそのような薄着で」

おろおろとして零さんが自分の上着を脱ごうとしていた。いや、渡されてもいま両面に奏汰と夏目くんが張り付いてるから着れないと思うんだけどね。

「零さんったら心配性だよ」
「おぬしが楽観的すぎるだけじゃよ。悪い事言わんからほれ、我輩の方へおいで」

パンパンと手を打って両手を広げてくる零さん。私はわんこか何かかな?

「いかないでねえさん……」
「れいだけ、いつも『ひとりじめ』でずるいです〜」
「相変わらず零は、名前にべったりですねぇ?」
「概ね零の言うことも間違いではないのだがね。というか君たちが邪魔をしなければ、放置しなくて済んだのだが!」

手招きする零さんに、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる奏汰と夏目くん、それを微笑ましく見守る宗と渉……という、だいたいいつもの構図になってきた。

「そ、そうだよ。宗、早く採寸の続き……」
「うむ。では名前、次は全部脱ぎたまえ」
「わかった」
「分からぬのじゃが!? えっ、もしかして斎宮くんは名前の採寸をするとき、全部剥いておるのかえ!?」

零さんの発言に、宗はうっとうしそうに肯定した。

「下着はさすがに残させているが、何か質問があるのかね?」
「な、なんと……そのような真似を……」
「はいはーい、ボク見学を希望するヨ」
「下心満載にも程があるだろう。却下だ、名前を除き全員出ていきたまえ」
「エー。そんな寂しいこと言わないでほしいよネ、せっかく全員そろってるんだシ?」
「たしかに、もっと『いっしょ』におはなししたいです〜……」

夏目くんはともかく、奏汰は純粋にしょんぼりしていた。その様子を見て、宗くんもちょっと「うぐっ」って顔をしている。

「確かに、せっかくここにそろっているのです! ここはひとつ、ライブ前に親睦を深め……いえ、旧交を温めあって、コミュニケーションをより円滑にしようではありませんか!」
「いい事言うネ渉にいさん。名前ねえさん……いや、ここは名前にいさんにしておこうかナ。昔着てた男子制服、まだこの部室にあるんだよネ? それ着て、商店街に行かなイ?」
「え? う、うん。多分ある。ウイッグも残ってるよね、宗?」
「ああ、綺麗なまま保存しているのだよ」
「決まりですね! 名前はそのまま制服を着てください! 宗の人形師としての腕前が試されますねえ……♪」
「ふんっ、試すなど馬鹿にするにも程があるね! 名前、早急に男子制服を着たまえ! 僕の腕にかかれば、十分もあれば君を美少年に仕立て上げることもやぶさかではないのだよ……!」

ノリノリだなぁ、宗。うん、嬉しそうでこちらも嬉しい。

「はいはい。じゃあ着替えるから、メイクは宜しく」
「任せたまえ。では準備をするぞ」


「零にいさんはいつまでショック受けてるノ? 名前ねえさんもう着替えに行っちゃったけド」
「う、うむ……名前の下着姿……斎宮くんが見てるとかショックじゃよ……我輩も見てない……たぶん……」
「多分って、絶対見てないよネ? 変なところで意地っ張りだなァ、零にいさん」
「零は結構負けず嫌いですからねぇ!」
「『どくせんよく』もつよいですよね。ぼくもなまえともっと『ほうかご』におしゃべりしたいです〜」
「分かる、基本的に零にいさんが部活に引っ張るからズルイよネ」
「我輩なんか集中砲火食らってるんじゃけども……」

……なんだかんだ、五奇人も男子高校生だった。