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ハロー、マイプリンス


バイクの調子が悪いからって電車で通学してきた泉と、お出かけ予定の鳴ちゃんと一緒に、夢ノ咲から駅まで歩いてきた。

今日は私も予定があるから、電車に乗る必要があるのだ。さて、切符売り場はどこだったかな、とあたりを軽く見まわしていると、思わぬ嬉しい発見が。

「ジュンくん!」

駅前のモニュメントの前で立つ、玲明学園の子。彼は私の声かけに、パッと顔をあげた。一瞬嬉しそうな顔をしたけど、恥ずかしくなったのか、すぐに真顔へと表情を戻す彼が可愛い。

そう……彼が私の『予定』なのだ。

「迎えに来てくれたの!?」
「まぁ、一応。夢ノ咲に近寄ったら尋問されそうだし、さすがに校門では待てなかったんすけどねぇ?」

ちなみに本日は土曜日。

本来なら学校は休みだけれど、今日は『Knights』のレッスンがあって休日登校という悲しいイベントがあったのだ。『Knights』の為に時間を使えるのは嬉しいけど、休日はだらだら過ごしていたい、この二つの欲求の狭間で揺られる気持ち、誰か分かってくれないかな。

なんてグダグダ思いながら、午後の予定の為に午前中は頑張ってたのだ。

――ジュンくんとのデートのために。

「うわぁ、わざわざありがとう! 隣町で集合だったから、駅一個分過ぎちゃうのに!」
「そっすね。まぁせいぜい100円ちょっとの浪費ですし、構わねえかなって思ったんすけど……あ。お宅ら、『Knights』の瀬名泉さんと鳴上嵐さんすかね?」
「……そうだけどぉ?」
「あらやだ、貴方が噂の『Eve』?」
「はい。オレは漣ジュンって言います。『Knights』の皆さんの名声はよく聞いてますんで、一度ご挨拶をと思ってました。名字先輩には、日頃お世話になってます」

ペコリ、と礼儀正しく二人に向かって一礼するジュンくん。顔に似合わず……なんて思っているのだろうか、二人が驚いた顔でジュンくんを見ていた。

「……どーも。今日は名前とどっか行くわけ?」
「はい。真剣にお付き合いさせて頂いてますんで、安心していただけると嬉しいっす」
「――そう」

泉はどこか固い声でそう言った。どうしたの、と私が聞くより先にジュンくんが私の手を取って歩きだした。電車の時刻が迫っていたのだろうか、と思って、彼の手を握り返して小走りで歩いた。



やはり土日の昼ということもあり、電車はすでに満席だった。適当に吊革につかまって二人で並び立つ。電車はすぐに動き始めた。

……うーん。

「ジュンくん?」
「なんすか」
「さっきから、顔が怖いよ」
「顔が怖いのは生まれつきっすけど」
「皮肉で逃げるのはなし!」
「う……」

言葉に詰まるジュンくん。彼、案外素直なのですぐ表情で何を思ってるか分かるのだ。どうやら、何か不安に思っているようだけど。

「もしかして、泉と鳴ちゃんに嫉妬した?」

冗談めかしてそういうと、ジュンくんは少し首を傾げて、それから「いや、そうじゃないんす」と否定の言葉を。そして、人に聞かれるのが少し嫌なのか、私の耳に唇を寄せて、ぼそぼそと答えを教えてくれた。

「……や、瀬名さんも鳴上さんも、やっぱ王子様みたいっつーか……小綺麗で、あんたの隣にいても全然違和感ねぇんですよ。それが、なんかちょっと……悔しい、っていうか。オレじゃやっぱ、違和感……」
「そんなことないよ!」
「うおわっ!? ちょ、突然腕引っ張んないでくれますかねぇ?」

やれやれ、という顔で私のほうを見るジュンくん。その顔はやっぱりどこか寂しげだったので、ずい、と顔を寄せて目をじっと見つめた。

「あのね、ジュンくん。そもそも私が、あなたに釣り合うように頑張らなきゃいけないんだから! ジュンくんは堂々としてていいの!」
「は!? いや逆でしょ。オレが名前さんに釣り合うように……」
「ううん、全然逆じゃないよ。年下でも、ジュンくんのほうがずっとがんばり屋さんだし、大人だし、いい子だから」
「いや、それってやっぱ、オレのこと子供扱いしてますよね?」

ちょっといつもの調子が戻ってきたのか、キレのあるツッコミが帰ってくる。私は少し笑って、バレたか、とつぶやいた。

「それに、私なんかに王子様なんて似合わないよ」
「そっすかね? 女王って言われてるんすよね?」
「それはこっぱずかしいあだ名だから……というか、ジュンくんだって既に王子様みたいにカッコいいと思うけどなぁ」

だってアイドルなんだし。
二次元における昨今の流行は褐色系王子様だし。
というか、私はジュンくんが好きなんだから、王子様と呼ぶべきはジュンくんしかいないよ。

ってことをつらつら語っていくと、彼は顔を赤くして「もうわかったんで、黙ってほしいんすけど……」ってそっぽを向いた。うん、やっぱり彼は私の大好きな、可愛い王子様だと思うんだ。