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デート計画は綿密に?

「放課後デートと言えば、二人並んで下校!」
「却下だ。英智は車で登下校している」
「一番の醍醐味をつぶされた!」
「ふふ。どうだい、名前もリムジンで下校してみるかい?」
「そ、それはちょっと……」
「車内でジュースくらいなら出せるよ。何なら家の者に言って、ケーキでも出させようか?」
「緊張しすぎて、ケーキもジュースも味分かんなくなりそうだから、お断りするよ……」
「そうかな?」

感覚が違いすぎる、この御曹司彼氏……!

「どうした。もう代案はなしか」
「ちょっと待って、敬人もなんか考えて! ほら、お得意の漫画から、デートネタ拾ってきて……」
「なぜ俺が」
「お願い、得意でしょ! こういう企画!」
「お前たちのデートは、生徒会の活動か何かか!?」

そう。
英智と放課後デートがしたいと思って、生徒会室まで来て打診したのだけれど、思った以上に障害が多く、こうして英智と私と、そして巻き込まれた敬人と共に、計画を練っているのだ。

「ねぇ、一緒に帰るのは諦めるとしてさ。どっか近場でデートするのは?」
「わぁ、良いね。いいカフェでも無いか模索してみたいな」
「英智の紅茶オタクっぷりすごいし、お店が太刀打ちできるか……まぁものは試しだよね! これならどうかな、敬人!」
「……まぁ、それくらいなら大丈夫だろ。家からもとやかく言われないだろうし」
「そうだね。徒歩圏内何分まで?」
「うーん。十五分くらいなら大丈夫と思うけれど」
「そっか! じゃあギリギリ駅前まで行けるね! あそこまで行ったら、良いカフェに入れると思う」
「あまり場末には寄り付くなよ、特に繁華街付近。お前も英智も、確実に絡まれやすい」

多分それは、敬人もだ。

なんて言って彼の機嫌を損ねる必要もない。うんうんとうなずいて、私はスマホから駅周辺のカフェの情報を検索した。まだ行ったことない場所がたくさんあるので、私も楽しめそう。

「じゃあ行こう、英智! 今すぐ行こう!」
「うん、構わないよ」
「おい待て、俺が構う! 英智貴様、またそうやって仕事から逃げるつもりだな!?」
「……名前、ちょっと走ろうか」

悪戯っぽく英智が笑って、急に私の手を引っ掴んだ。そのまま敬人に背を向けて走り出す彼に、私もずるずると引きずられていく。

「え!? ちょっと英智!?」
「待て!!」
「椚先生に見つかって挟み撃ちを食らう前に、逃げ出さないとね」
「そりゃそうだけど、こんな元気よく走って平気なの!?」
「さすがの僕でも、一瞬くらいなら大丈夫」

ぱちん、とウィンクを決めてくる程度の余裕があるなら、強がりじゃないだろう。掴まれた手を握り返すと、英智が嬉しそうに笑った。


「……まったく。度し難い奴らめ」

敬人が、どこか嬉しそうに笑った。



で、結局ついた場所は、全然カフェなんかじゃなくて。

「名前……どうして揚げ物のカツが30円で売られているんだろう? ほら見て、こっちにはヨーグルトが……10円? まさか、いくら小さいとはいえそんな……ちょっと、なんで笑ってるんだい」
「くっ、ぷ……あはははは! 英智、はしゃぎすぎ!」
「だって、仕方ないじゃないか……こんな価格設定信じられない」
「うんうん、そうだね」
「撫でないでくれないかな……」

しゃがんであれこれとお菓子のかごを物色している英智。よしよしと揺れる金糸を撫でれば、僅かに頬を染めて不満げな顔をする彼。私は可笑しくって、笑いが止まらない。

なにせ、天下の天祥院家のご子息が、私のおごりでお菓子を買うなんて光景、もう二度と見れそうもないのだから。

「司くんも駄菓子大好きなんだよ。御曹司は駄菓子が好きになる習性でもあるの?」
「せめて知的好奇心がくすぐられてるんだね、と言ってほしいよ」
「いやいや、絶対言わないし。でもまぁ、社会勉強の一環と思って楽しんだら? はいその一、支払いについて」
「駄菓子屋でカードは使えない」
「正解!」
「さてはバカにしてるね?」
「してないしてない……♪」

英智の隣にしゃがみこんで、めぼしい駄菓子を探し当てる。おおこれこれ、フエラムネだ。

「おばちゃん、これください!」
「はいよ。50円ね」

居間の見え隠れする場所に座って、店主のおばちゃんが私に手を差し出してくる。その手のひらに50円硬貨を渡すと、おばちゃんが頷いて「はい、ありがとねぇ」と一言。

「ラムネかい?」
「そうそう。これね、笛みたいにピーって鳴るの」
「鳴る……?」

不思議そうな英智の前でラムネを口に含み、宣言通りの音を鳴らせば、彼は綺麗な青の瞳をまんまるにした。

「本当だ。僕にもできるかな」
「はい英智、あーん」
「え、え? ……君ってなんでこう、予想外のところで大胆なんだろうね」
「はいはい、照れてないで口開けて?」
「遊ばれてるなぁ……なんか屈辱だよ。必ずお返ししてあげるからね」
「彼女相手にひどいよ!」

なんてね。
英智が照れ隠しにそういってることなんてお見通し。いつも翻弄されてるんだから、たまにはこういうのもいいよね。