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繁華街には連れてかない


「君、こんなところに何の用なの?」
「道に迷ったんじゃね?」
「かわいいから怖いお兄さんに騙されないか心配だなぁ、俺らが一緒にいてあげようか?」

すでにあなたたちが怖いんですがそれは。

お世辞100パーセントの賛辞を浴びながら、一生懸命この場から逃げ出す方法を考える。ああやっぱり、一人で繁華街なんか歩くんじゃなかった……とさっそく後悔し始めているけれど、しかしまだここに来た目的が達成できてない。どうにかしてこの難関を乗り切らないと……

「あ、あの……私迷ったんじゃないので、ご心配なく……」
「迷ったんじゃない? きみが?」
「ってなると、ナンパ待ちだったの〜? はは、意外と大胆」

え!? 私ごときがナンパされる訳ないじゃん、何言ってんのこの人たち!? 宇宙人!? と茶化すことはままならず、慌ててぶんぶんと首を横に振った。

「えっ!? ま、まさかそんな、違います!」
「夢ノ咲のかわいい制服着たままとか、超そそる」
「そういうことなら俺らが奢ってあげるよ〜? ほら、この辺良い店たくさんあるし」
「ち、ちが……」

不穏な発言に、体がこわばった。右腕をつかまれ、どうしようと周囲を見渡したその時だった。

「おい。お前ら、俺の連れに何してる」

低く、下腹に響くような声がした。その声は私にとっては心底安心できる声だったけれど、目の前の男の人たちにはそうじゃなかったらしい。私よりずっと体をこわばらせ、「ヒッ!?」と短く悲鳴をあげた。

「そいつに何しようとした? 内容次第では、ただじゃおかねえぞ」
「ひ……こいつ、鬼龍だ!」
「やっべえ、逃げろ!」

なんてテンプレともいえるチンピラ台詞とともに逃げていった男の人たちをぼーっと眺めていると、私を助けてくれた彼は盛大なため息とともに、こつんと私にげんこつを落とした。それはもう、痛くもかゆくもないような、優しい力加減で。

「だからあれほど、校門で待ってろって言っただろうに」
「だ、だって、せっかく早くレッスンが終わったから、紅郎くんに会いに行きたかったんだもん……今居るって言ってた店も、私だって知ってたし」
「ったく……そう可愛いことを言われると、許しちまいたくなるな。月永の苦労がしのばれるぜ」
「ええ!? レオに苦労かけたことなんてないはず! 多分!」
「自信ねえなあ、おい」

ぽんぽんと頭を撫でられる。お兄ちゃんみたいな撫で方は、心地よくて好きだ。……えっと、でも妹扱いはされたくないけどね!

「名前はおとなしそうな見た目してんだからよ、頼むから一人でこんなとこに来るんじゃねえ。ああやって肝の小さい野郎でも、簡単にすり寄ってくるだろうが」
「はーい……。紅郎くんと一緒ならいいよね?」
「ああ、まぁな。絶対傍から離れねえって言うなら、連れて歩かねえこともねえが」
「えへへ。じゃあ、今度から繁華街に行きたいってたくさんおねだりしようかな」

そうしたらもっと紅郎くんとデートできる……! と結構な名案を思い付いた。と思ったけど、紅郎くんはまたため息をついて苦笑した。

「なんでそう、可愛い発想ばっかりするんだ? お前さんは」
「え、どういうこと?」
「別に毎回繁華街に行きたいって言わなくてもいいだろ。名前に頼まれりゃ何処だって行くってことだ」

そういうと、紅郎くんは私の手を取って歩き出した。私よりずっと大きな歩幅。けど今は、私が小走りにならないように小さく調整されている。あの人たちは紅郎くんを怖がっていたけど、こんなにやさしいのになぁ。

「どこ行くの、紅郎くん?」
「繁華街から出る。お前、確か学院の近くに行きたいカフェがあるとか言ってなかったか?」
「う、うん。ついてきてくれるの?」
「デートしたいからって毎回ひとりで繁華街に来られちゃ叶わねえからな。とりあえず、まずは学院の近くまで版図を広げるか」
「やった! じゃあ今度は映画館も行きたいし、水族館も行きたい! カラオケも一緒に行きたい!」
「おう。全部連れてってやるから、ちゃんと俺を呼んでから行動するんだぞ」
「ふふ……紅郎くんったら過保護」
「心配なんだよ。今日ので前科一だからな」

そうぶっきらぼうに言って、私より少しだけ前を歩く紅郎くん。その耳が赤いのは、私だけの秘密にしてあげようと思った。