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ギャグで人は死なない

「突然呼び出したかと思えば、何なのじゃこの仕打ちは……」
「兄者と一緒にまとめられるとか、最悪……」

と、二人まとめで縛られ、『Knights』のスタジオの床に座る羽目になった朔間兄弟が苦情を言う。さて、この兄弟を縛り上げたのはもちろん、このスタジオの主たちで。

「自分の胸に手を当てて考えてみろよ、リッツ、レイ〜!」
「当てるための手が縛られておるのじゃが」
「あっそっか! ごめんごめん、じゃあ当てなくていいや!」
「ていうか、その前にこれほどいてよね、王さま……?」
「やだ!」

やはりこの訳の分からない行動の首謀者はレオであるらしい。こういう時に頼れるストッパーといえば、と思って凛月は泉や嵐に視線を向ける。

「え……なんでセッちゃんは、スタジオの隅でぶつぶつ言ってるわけ……怖っ……」
「仕方ないわよぉ、泉ちゃんは今傷心状態なんだから」
「なに? なんじゃ、瀬名くん、まさか名前に告白してフラれたのかえ?」

零が茶化すようにそう言ったが、泉は無反応。……どうやら本気でショックを受けているらしい。

「え、これ当たっちゃった感じかのう? 我輩空気読めてなかった?」
「くああっ、まだしらばっくれるつもりですか、朔間先輩方!」
「ちょっと、何なのス〜ちゃん。いきなり怒鳴らないでくれる〜……? 寝起きの頭に響く……」
「そうですか、ではこの画像を見て目を覚ましてください!」
「「画像?」」

兄弟らしく、二人の声が重なった。ここで常なら凛月が「あり得ない」等の文句を言うところだが、そんなことよりも今はなぜ自分たち兄弟が『Knights』の皆に縛り上げられているのかを知ることが先決だった。司の手元にあるスマートフォンに映っている画像は……

「名前……」
「と、おお、これは可愛い赤子じゃのう」

画像はいたってシンプルだった。名前が、三歳くらいの赤ちゃんを抱えているもの。微笑ましい絵面だなぁと、珍しく兄弟同じことを思っていたのだが、それはレオのとんでもないセリフによって打ち消された。

「で、どっちの子供なんだよ?」
「……は?」
「あいつと同じ黒髪の子供! できるとしたらおまえらとの間だろ! どうなんだ!」
「はぁぁ? ちょっと待ちなよ、何言ってんの?」
「我輩と名前の仲の良さに思わず関係を疑う気持ちはわからなくもないがのう……?」
「兄者は黙ってて、話がややこしくなる」

手が使えないため、凛月は思いっきり兄に向かって頭突きを一発。「痛ぁ!?」と、アイドルとは思えない絶叫をかました零を放置し、凛月は淡々と『Knights』に語り掛けた。

「まず、なんで名前が産んだと思ってるの。生物学的に、夏休み期間の間に産むとか無理でしょ。そもそも黒髪ってだけで俺たちをひっとらえてもさぁ、日本人はほぼ黒髪でしょ。なのに俺たちが縛られるとかなんなのこの仕打ち、ギャグ時空なの?」
「そうじゃそうじゃ。名前とあんなことやそんなことをした気もするが、基本的に我輩責任ある行動しかとらぬぞいったあああ!?」
「おいどういうことなのクソ兄者? あんなことやそんなことって何、具体的に言ってみなよ」
「まっ、ちょ、痛っ! 凛月は石頭なのかえ!? 吸血鬼のおちゃめなジョークじゃよジョーク、ちょっと待て月永くん、なんじゃその椅子、振り下ろす気か!? アイドルは暴力沙汰厳禁じゃよ!?」

ごろんごろん転がってもみ合いになる朔間兄弟、完全にハイライトの消えた目で零を見下ろすレオと司、爆笑している嵐、まだ反応のない泉。カオスここに極まれりといったところか。

「あれ? ちょ、なんで暴れてるの!?」
「愛し子や〜! 助けておくれ、騎士が爺を虐めてくるのじゃが!?」
「って零さんか……今度は何を言って『Knights』の皆をからかったの」

くすくすと名前が笑う声が聞こえた。その方向へ視線をやると、確かに彼女は赤子を抱えていた。確かに黒髪、しかしこっちを向かないために目の色までは把握できない。もちろん、零の子である事実なんてないが。

「名前、頼むから早く騎士たちにその子供の素性を教えてやってはくれぬか!? 我輩このままだと撲殺されそうじゃし!」
「え? 子供の素性?」
「そうだよ。兄者に孕ませられたの? 大丈夫だよ名前、今俺が抹殺してあげるからね……そしてその子供は俺の子として育てる」
「凛月!? さっきまでツッコミをやっておったではないか〜!?」
「面白そうだから、もう王さまたちの側につこうかなと思った」
「鬼か!? いや吸血鬼じゃけども!」
「二人とも、何漫才してるの? 心配しなくても、この子ちゃんと両親いるし。ほら、数学の先生のお子さんだよ」

至極まっとうな返答、マジレスが返ってきた。
しかし名前の発言で、どうやら『Knights』の理性的なモノが取り戻されたようだ。すっとよみがえる約二名のハイライト、何事もなかったかのように髪をいじくる泉、やっと爆笑が収まった嵐。とりあえず零が撲殺される事案は消えたようで何よりだ。

「ふぅ……助かったぞい名前。いくらギャグで死人は出ないという世界共通ルールがあったとはいえ、このままじゃとちと恐ろしかったからのう」

名前が縄をほどいてくれる。零は心底安堵しながら、愛しの弟に頭突きを食らった額を撫でた。騎士たちが零に迷惑をかけた、という一点だけは察しがついたのか、名前は苦笑して「ごめんね、零さん」と言ってくれた。

ひどい目にあったが、名前に労わってもらえるという点では幸運だったのかもしれな……

「ところで名前、兄者とセックスしたことある?」
「へっ!?」

いきなり凛月が、とんでもない質問をしてきた。
名前の顔は、徐々に赤くなっていく。零は、徐々に自分に突き刺さる殺意の数が増えていくのを感じた。

「――はい、兄者殺す」
「いま殺されるわけにはいかぬ! ほれ名前、逃げるぞい!」
「えっ、あ!? 零さん!?」

今度は本気で殴られそうだったので、零は名前の手をとって逃げることにした。