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愉しみは一人じゃ食べきれない

「あいつかね、零の言っていた『面白そうな美少年』とやらは」
「んん〜? おかしいですね、私の審美眼が狂ってしまったのでしょうか、少年というには少し柔らかな雰囲気を感じますねぇ」
「『いちねんせい』でしょうか?」
「あんな奴知らないヨ? 二年生じゃないノ?」

五奇人。
夢ノ咲学園・アイドル科の中でも才能に満ち溢れた『化け物』の集まり。それはいつしか、『悪い化け物』の集まりとして、生徒会に剣を向けられる『設定にされた』存在となったのだが。

それはまだ、少し先の未来の話だ。
少なからず今は、彼らは名前を知らない。
騎士団の崩壊も見ていない。
ただ見ているのは、新しい仲間の友人だった。



――退屈だ。
退屈だ退屈だ退屈だ。Bored!

「おい、お前さ」
「なんですか」
「なんか面白そうな厄介ごと知らねえ? なんでもいい、スキャンダルでも暴力沙汰でも構わねえ。生徒会長権限で割り込んで、暴れまわる場所が欲しいんだよ」
「生徒会長権限をなんだと思ってるんですか……てか、要するに『事件が欲しい』ってことですよね、それ。剣呑だなぁ」
「お前も大好きだろ、剣呑なことがさぁ」

わざわざ平穏な場所から、ソドムに来てるんだから。
零にはその確信があった。絶対に、この女は『普通じゃない』はずなのだ。

「いやいや、あり得ないです。今だって怖いアイドル科の生徒会長さんに絡まれてビクビクしてます」
「ほんとにビビってる奴は、まず俺の目を見ねえし、こんなところに一人で来ねえよ」

やけに高価な調度品が立ち並ぶ、密室の生徒会室。
椅子じゃなく机に腰掛ける横柄な生徒会長、と自分で書いてみても奇妙な光景だ。並みの人間は近寄りたがらないし、第一呼び出しに馬鹿正直に応じない。危険を察知してスルーするはずなのだ。

だが、こいつは来た。
毎度毎度、律義にここに来た。

月永、とかいうやつの戦争に付き合っている、奇妙な女。どこからどう見ても、平凡で普通な女だったが、こいつの弄した策は驚くほど効く。あの【デュエル】というシンプルかつ面白い殺し合いにも、名前は躊躇せず策を月永たちに寄こしていた。

決して表にでない、ただ戦場を眺めるだけのチェスプレイヤー。その在り方は、どうも自分の置かれている立場に似ているようで、気になるのだ。

「なぁ、いまお前は愉しいか」
「愉しい?」
「普通じゃない空間、普通じゃない話し相手。なぁ、お前はこういうのが欲しいんだろ。戦場が、あるいは危険な場所が」
「……危険な場所かは知らないけど、別にあなたを危険な人とは思ってないよ。愉しい人とは思うけど」

危険が大好きな、アドレナリンジャンキー。
そうやって零を評したのは、彼女くらいのものだろう。
その評価を、彼女にそのままお返しするのも、零くらいのものだろう。きっと誰も、この隠れた異常性には気づかない。

「愉しい人か。うん、俺もお前が愉しいと思うよ」
「私が? なんで?」
「俺に一人で、協力を願い出るような奴はな、まともじゃね〜よ。だけど、まともじゃね〜人間は、面白いだろ。一緒にゲームするには十分なプレイヤーだ」
「ゲーム?」
「そう。自分自身をかけた、最高に面白いデスゲーム。夏が終わるころには、きっと始まってる……そう思わね〜か?」
「――英智のこと?」

少し困ったような顔で、名前はあっさりと最適解を口にした。

ほら、やはりこいつも理解しているのだ。
敬人の半端な計画も、他人のシナリオを書き換え、物語を刻む気の、あの根暗くんのことも。

「備えあれば患いなし。お前の騎士様たちは、剣をふるうので精一杯だからなぁ」
「……協力してくれる気になったの?」
「ああ。ただし、約束してくれよ」
「なにを?」
「――俺と一緒に遊んで、愉しい思いをさせてくれ。退屈を塗りつぶすくらいの愉快な事象を俺にくれよ。そうしたらきっと、体が灰になるまでは協力してやる」

さぁ、契約してくれ。
そういう目で見ると、名前の目もわずかに輝いた。

愉しい思いをするなら、一人より二人。二人より、もっと大人数がいい、そうだろう。

「――いいよ」

まだ誰も知らない、名前も、零すらも知らない、彼の新たな四人の友が現れるまでは、二人で遊んでいよう。



「おわっ!? 渉、何このバラの海!?」
「ふっふっふ……照れないでください名前! 友人を歓迎する愛のバラですから……☆」
「バラで窒息する! シャレにならない!」
「おい名前、ウイッグにバラの花びらがついているじゃないか。渉の用意するバラは生花なんだ、気づかずに放置すると、汚れの原因になるだろう」
「待て待て、せめて汚れの前に私の呼吸の心配を」
「そういえば、ローマ皇帝の中の一人に客人をバラの花びらの海に沈めて殺すのが趣味の人間がいたよネ」
「はなびらの『うみ』じゃ、おさかなはおよげませんね……?」
「いまその話する必要あるー!?!」
「あっはっは、はしゃぐなって名前!」

ゲラゲラと大笑いしながら、零さんの長い腕が私の胴体に絡まった。そのまま引っ張られると、なんとかバラの海から脱出成功と相成る。な、なぜ五奇人に会いに来ただけでこんな仕打ちを受けなければならないのか――!

「ああ、死ぬかと思った!」
「おいおい、勝手に死ぬなよ。死ぬなら俺と心中してくれ、寂しいだろ〜?」
「おやぁ? 零はまだ、名前と心中するのをあきらめてないんですか?」
「諦めてねえよ。灰になるまで協力するとは言ったけどよぉ、灰になるその時はこいつも道連れにしてやる」
「れいはおともだちがだいすきですねぇ……」
「名前ねえさん、完全に協力を仰ぐ人間を間違えてるヨ」
「ほんと……物騒な人だなぁ、相変わらず」

愉しみを共有させろという契約が、どうして心中しろにすり替わっているのか。零さんは、命を懸けないと楽しめないというけれど、今の彼も十分愉しそうだ。

「大体、君たちはどういう『契約』をして、心中するしないなどと俗な騒ぎを毎度起こすのだね」
「別に大した約束じゃないよ。私の【『Knights』のために情報を流してくれ】ってお願いの代わりに、零さんは【俺がやりたいことに手を貸せ】って言っただけ……」
「で、やりたいことは心中という訳か? まったく訳が分からない」

そこは私も同意だ。
でも――多分心中したいという訳ではない。それは確かだ。彼は最初にこう定義しているんだから。

「愉しませてくれ――ただそれだけが俺の願いだよ。今んとこ、心中が一番面白そうだから繰り返してるんだけどよぉ、名前ちゃんはちっとも聞いてくれね〜の」
「当たり前でしょ! もう、用がないなら帰るよ!?」
「あー待て待て。嘘だって。用ならちゃんとある。――せっかく五奇人がそろってるのに、戦線離脱とかしねえだろ、名前?」

零さんはいつだって退屈そうだ。
けど今この時、五奇人といるとき……彼は愉しそう。
だからきっと、わざわざ私を呼ぶんだろう。無意識に。

――退屈を塗りつぶすから、お前も一緒に遊べ、と。

まるで子供が遊びに誘うように。だから彼が望む限りは、私も遊びの仲間に入れてもらおうと思う。